アスペクト
監視委は5月29日、旧中央三井アセット信託銀行(現三井住友信託銀行)に課徴金の納付命令を出すよう金融庁に勧告した。野村證券の投資銀行部門の幹部と部下の2人から、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)の増資が予定されているとの情報を得た中央三井のファンドマネージャーが、増資発表前の2010年6月24日にみずほFG株を売却。増資発表後の株価下落による損失(2020万円分)を回避したインサイダー取引の疑惑である。
野村の2人は、ファンドマネージャーに対して、10年4月から11年1月までの計39回、89万円の接待をしたほか、テレビやかばんなど32万円相当の物品を贈るなど過剰接待を繰り返していた。働き掛けが奏功して増資分を引き受けてもらえれば、野村には株取引に伴う手数料収入が入る。野村の社員は、インサイダー情報をギブした見返りに増資に協力するよう求め、中央三井のファンドマネージャーは、公募増資で新たに発行された株式を購入していた。営業の潤滑油として、増資の内部情報が恒常的に使われているとの噂を裏付ける結果となった。
「チャイニーズ・ウォールが崩れ、営業部門に情報が伝わっていたという十二分の証拠を持っている」。監視委の幹部は5月29日の課徴金納付命令を勧告すると発表した席上、こう断言した。チャイニーズ・ウォール(万里の長城)とは、企業の増資情報を扱う投資銀行部門と、株を売る営業部門との間で、情報を遮断する壁のことだ。不正を防ぐために、証券会社は投資銀行部門と営業部門の部屋を別にするなど壁を設けているが、野村の場合、これが有名無実だったという指摘である。
監視委は今年3月にも、国際石油開発帝石の増資情報を公表前に野村の営業担当者から聞き、インサイダー取引をしたとして、中央三井に課徴金の納付命令を出すように金融庁に勧告した。しかし、野村は「(情報を流したのは)元社員の個人的な行為」と主張、組織ぐるみの行為ではないと否定。「チャイニーズ・ウォールは守られている」との立場を取り、情報管理に問題はなかったとしてきた。だから、社内処分は社長の報酬3カ月カットなどにとどめていた。