前回は、増資情報を漏らした26歳の営業部の女性社員に責任を押し付け、野村のトップが責任逃れをしたから、監視委の検察出身の佐渡賢一委員長(65)は激怒。4月25日、野村證券への特別検査に踏み切った。監視委はこの春、定期的に実施している野村への一般検査を終えたばかり。一般検査終了後、直ちに特別検査に入るのは極めて異例なことだ。
特別検査では、10年の国際石油開発帝石の増資に絡むインサイダー取引や、同年の公募増資の際の東京電力株式の不自然な動き(=急落)への野村の関与の有無を調べている。
東京電力の増資に関して、証券取引等監視委は6月8日、米国のファースト・ニューヨーク証券に対して1468万円の課徴金納付命令を出すよう金融庁に勧告した。同日、単独で東京電力の時価発行増資の主幹事を務めた野村は社員が情報を漏らしたことを認めた。情報の漏洩は「個人的なミス」でなく、組織ぐるみ。金融商品取引法違反(信用失墜行為など)の証拠を掴むのが特別検査の狙いだ。
〈監視委の佐渡賢一委員長は、この立ち入り検査の真意を、「これは野村とうちの全面戦争ということだ。一歩も引くつもりはない。徹底的に戦う」と言い切った〉(「FACTA」2012年6月号)
現行法では、情報を提供した側はインサイダー取引による処罰を免れる。違法取引のきっかけをつくった証券会社の責任は不問に附される。だが、監視委は、旧中央三井に情報を漏らした野村證券に行政処分を勧告する方針を固めるなど厳しい姿勢で臨んでいる。
野村側は、たとえ「黒」の審判が下っても2トップの地位は死守する構えだったが、厳しい対応を迫られることになる。確かに野村側には「意見申し出」の機会が設けられている。異議をとなえることによって処分を先延ばしにすることもできる。いささか極論になるが、インサイダー情報漏洩問題で、もし、野村證券が行政処分を受けても、同証券の永井浩二社長(53)の首を差し出せば、乗り切れるという読みがHDの2人のトップに働いているようにも映る。
4月のグループの首脳人事で、持ち株会社、野村HDの渡部CEOと柴田COOは、グループ全体の運営と海外部門の立て直しに専念し、証券子会社の野村證券の社長に、国内営業畑のエース、永井氏を起用したことが生きてくる。