――電通はコネ入社が多いと聞きますが、実際はどうなのでしょうか?
A氏(以下、A) 詳しくはわかりませんが、全体の2〜3割くらいでしょうか。「コネだから仕事ができない」ということはなく、かなり優秀な人もいますよ。やはり、それなりに血筋がいいということなんでしょうかね。中には、人質のような人もいたりします。すぐにコネとわかる人もいれば、自分から言う人もいますね。あまりいない名字の人だと、「父親が〇〇テレビの役員」とか、すぐにわかっちゃったりしますが……。もちろん、コネかどうかわからない人もたくさんいます。
――どういう関係のコネ入社が多いのでしょうか?
A メディア関係がほとんどで、大口クライアント(顧客)関係もいますね。それこそテレビ局なんてコネ入社だらけですが、お互いに子どもや親戚を入れ合ったりしてるんでしょうね。ただ、広告代理店として、メディアや大口クライアントとの関係を維持していく中で、コネがある人材を年間1000万円の給料払って留めておけば、年間何百億円もの利益が上がるのであれば、ある意味合理的なシステムかなと思いますね。
新人研修のために車を売る?
――入社後の新人研修では、何か独特なことはやるのでしょうか?
A 新人全員が一斉に受ける研修が1カ月間あり、一般的なマナー研修や広告の勉強などをします。ウチには「リーダー・サブリーダー制」という伝統があり、新人10人弱くらいでひとつの班をつくるのですが、そこに先輩社員であるリーダー、サブリーダーが研修期間中ずっとついてくれます。そこで、社会人の基礎とか、電通マンのマインドを徹底的に叩き込まれるわけです。通常の研修は17時半に終わるのですが、その後に班単位で毎日飲みに行くわけです。それこそ、移動はすべてタクシーで、毎日朝4時まで飲むんですよ(笑)。単に飲むだけではなく、リーダーが社内外のゲストや知り合いの芸能人を呼んだりするわけです。彼らのネットワークが試されることにもなります。
――それはすごいですね。費用は会社から出るのですか?
A 少しは補助が出ますが、ほとんどはリーダー、サブリーダーのポケットマネーですね。お金を調達するために、車を売った人もいたようです。お店の選び方とか、酒の飲み方とか、実践の場を通じて電通イズムを継承するわけです。本当の研修はこっちのほうだと思いますね。でもそうして、それまで学生だった新人が、今まで行ったこともないようなお店をたくさん知って、普通だったら会えないような人たちに会い、人脈をつくり、お酒の飲み方を含めた社交術を1カ月で学ぶのです。そうやって、研修後に実際のビジネスの場に投げ込まれたときに、夜の席含めて、取引先などとの会合に出しても大丈夫なレベルにまでもって行く。ある意味、ものすごくよくできたシステムだと思います。
――でも、毎日朝までだと、大変ですよね。
A 例えば前夜のゲストが社内の人だと、次の朝は必ずその人のところにお礼に行かなければいけないんです。不在なら手紙を置いとけと。それを知らなくてやらないと、ものすごく怒られたりしました。だから、4月の電通社内は、毎朝集団で右往左往する新人たちでにぎわいます。今はコンプライアンスの問題とかありますので、だいぶ変わってきているようですが。
血みどろで出社する新人
――入社して、電通に対しどんな印象を持ちましたか?
A 超体育会の会社だなと。上下関係は厳しいです。例えば、職場に配属された初日に開いてくれた歓迎会では、記憶がなくなるくらい飲まされましたね。その店にある酒をすべて飲みきったので、コンビニで酒を買ってきてまで飲んでましたね。すごかったのは、ある新入社員が酔っ払って吐いて寝てたら、先輩から「お前!何してるんだ!」と言われて思い切り殴られていました。あれはやりすぎかなと思いました(笑)。そのほかにも、飲んだ翌朝にワイシャツが血だらけで出社した人がいたんです。飲みすぎて血を吐いたらしいのですが、「なんで着替えてこなかった?」と聞いたら、鍵も財布もすべてなくして、どうしようもなくてそのまま来たと。帰りのタクシーで一緒に乗っていた人に聞いても、誰も何も覚えてなかったそうです(笑)。
――普段も、そんな感じなんですか?
A 入社して数年間は、夜中12時前に帰った記憶はないですね。12時前に仕事が終わると、「早く終わったー」「じゃ飲みに行こう!」ってなっちゃうんです。それは、研修で朝まで飲んでいた頃の感覚が染み付いて、常識的な感覚がなくなっているんですね。なので、仕事があろうとなかろうと、結局帰宅は3〜4時になってしまいます。
――それでも、皆さん朝早くちゃんと出社するんですよね?
A これも研修の時に教わるんですが、「新入社員とか若手は、どんなに前夜酔っ払っても気持ち悪くても、礼儀として朝はちゃんと来る」ということが、叩き込まれています。「一瞬でも、朝職場に顔を見せれば、あとはずっとトイレにこもっていてもいいから」と言われますね(笑)。
「全裸で銀座を疾走」伝説
――よく、「接待でクライアントを喜ばせるために、電通社員が全裸で銀座を疾走する」などという伝説も聞きますが、本当でしょうか?
A 電通は、「2001年の上場前=バブル世代」「上場〜リーマンショック前」「リーマンショック後」の3つの時代で、まったく雰囲気が違います。「銀座で全裸」は、まさにバブル世代。その時代を謳歌した人たちは、いま部長クラスになっていますが、彼らは今でも部下とカラオケに行くと、全裸になってそのままお会計に行こうとしたりします。しかし上場後は、やはり社会の目もあり、「コンプラが大事」などと社内でも言われ、そうしたイケイケさは減りました。そしてリーマンショック後、さすがにウチも業績が下がり、まず使い放題だったタクシー券がなくなった。それまでは、飲んでいても仕事していても「終電を気にする」という感覚がなかったのが、「そろそろ終電だから……」とか言いだすようになった。そうすると、一気に社内が静かになり、最近ではますます「普通の会社」になりつつあります。先ほどお話しした「新人研修で毎日朝まで」という伝統も、なくなってしまったようです。「1年目はイッキ飲み禁止」とかいう訳のわからない社内規則もできましたし。“イケイケさ”というのは、まさにビジネスにおける電通の強さの源でしたが、こうした「普通化」が、企業としても電通の弱さにつながらないか、とても心配です。
――電通ならではの、仕事のやり方はありますか?
A 義理人情の“ヤクザ”な世界が結構ありますね。簡単に言うと、平気で人を追い込むことが多々あります。例えば、新聞の広告枠を取る際、どの面にしたいというクライアントの希望があるわけです。その中で、対博報堂との戦いも当然ありますし、社内的にも部署同士で良い枠の取り合いで争うこともあります。そういう時に、どんな手を使ってでも自分のクライアントの希望を優先させるために、相手を潰しにかかるわけです。それが博報堂相手ならまだいいんですけど、同じ電通内で潰し合うのは、会社全体ではどうなのかなとは思いますね。緻密ながらも時には大胆に、傲慢に、相手にプレッシャーを与えたりするわけで、まさに命をかけている感じです。その執念、マインドは凄まじいものがあります。
コンペで博報堂に負けたら…
――博報堂に対しては、どのように思っているんですか?
A この業界では、明確に1位(電通)と2位(博報堂)の関係なわけで、入社前は「余裕があるのでは」と思っていました。しかし、博報堂と競合する時などは、それこそ敵意丸出しで「絶対に負けるな!」「負けたら死ぬんだ」という強い意気込みがあるんですね。「絶対に負けてはいけない戦い」なわけです。そうした“凄み”は、あまり博報堂からは感じられません。博報堂は、もっとクールですね。
――そうした違いは、ほかのシーンでも感じることはありますか?
A たまに、クライアントさんとの飲み会で、博報堂など他社と一緒になることがあるのですが、博報堂はそんなにこっちを意識していなくても、うちは火花を散らして「お前ら、今日はわかっているな! 絶対に負けるな!」となるわけです。「やつらに1分も活躍の時間を与えるな」と(笑)。もはや、何を競っているのかわかんないくらいです。まあ、ウチがそんなことしても、クライアントさんがどう評価しているか不明ですが……。
――すごいですね……。
A あるクライアントさんの担当者が異動することになり、送別会をするとなれば、もう毎晩夜中12時から部内で企画会議です。「どうすれば、その人を感動させられるか?」あらゆる出し物を考えるのです。メモリアル映像まで制作して、そのクライアントさんのCMに出演したタレントに出てもらうところまでします。でも、同僚の結婚式の2次会でも、電通マンは同じようにやっちゃうんですよね。こうした根っからの“企画屋”精神を持った社員の集まりだということが、間違いなく電通の強さだと思います。
――電通は、「日本のCIA」ともいわれ、裏社会含めてあらゆる世界とつながって、オリンピックをはじめとした巨大利権を握っているという話もありますが、実際はどうなのですか?
A そうあってほしいですが、残念ながら、少なくとも現場レベルでは、今はそんなパワーはないですね。もはや、普通の会社になってしまったのではないでしょうか。
(構成=編集部)
<目次>
【1】大阪市職員「公明党より低レベルな維新の会とクレイジーな市民」(http://biz-journal.jp/2012/08/post_486.html)
【2】野村社員「部下は監禁・罵倒し、顧客に損さてもノルマは死守」(http://biz-journal.jp/2012/08/post_485.html)
【3】電通社員「新人は毎日朝まで伝統“血みどろ”研修in飲み屋」(http://biz-journal.jp/2012/08/post_484.html)