「会社は、残業を減らそうと躍起だったんです」
広告代理店最大手、電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24歳)が過労により自殺に追い込まれた。高橋さんの遺族の弁護士によれば、高橋さんの入退館記録を元に集計した残業は、昨年10月が130時間、同11月が99時間に上るという。
14日には東京労働局が従業員の労働実態を調べるため、同社への立ち入り調査を行ったが、今回、同社社員に匿名を条件に話を聞くことができた。返ってきたのは、意外な言葉だった。
「仕事をダラダラやるなということで、午後10時までには退社するようにと、会社からは口うるさく言われています。以前は、仕事が終わっても社内でテレビを見ていたり、ボーッとしていたりすることもあったんですが、そうした残業ではない“私的在館”は許されなくなれました。ノー残業デイを設けたり、サービス残業撲滅は声高に言われています」
だが会社が働きかけても、なかなか残業は減らず、残業時間が月100時間を超える者はざらにいるという。
「残業を減らすことに、労働組合はもちろん賛成ですから、“36協定”での残業の上限時間を下げようとしているんです。でも、それに反対だという社員も多くいます」
労働基準法は労働時間や休日について、1日8時間、1週40時間そして週1回以上の休日の原則を定めている。会社はそれを超える労働、つまり残業を社員にさせる場合には、あらかじめ労働組合との間で書面による協定を締結し、それを所管の労働基準監督署長に届け出る必要がある。労働基準法第36条に規定されているため、この協定がいわゆる“36協定”と呼ばれているものである。
現場と経営幹部間の溝
では、残業時間の上限を減らすことに、異議を唱える社員とはどんな人たちなのか。
「まずは、仕事が楽しくて楽しくて、しょうがないという人たち。能力が認められてクライアントから指名されたりすれば、うれしい悲鳴というわけで、たとえ忙しくても断ったりはできないでしょう」
自分の手がけた広告で、メガヒットを飛ばしたりすれば、その喜びはプライベートでは得られないもの。もっと仕事をしたいという気持ちにもなるだろう。