「それに残業が多いといっても、勤務時間は、ベテラン社員になればなるほど、自己裁量で自由に時間が使えます」
会社への入館と退館はICカードでチェックされるが、クライアントとの打ち合わせなどで外出する際は、ホワイトボードに行き先を記すだけだ。外出したついでに映画を見たりすることもあるという。
電通でなくとも、長時間労働が当たり前になっている会社では、どうせ遅くまで働くのだから、ただ座っているだけの必要のない会議にも出ていよう、などとなりがちだ。マラソンランナーがペース配分して走るように、当然の人間心理である。
「会社は、働き方を朝型にしようと、8時半までに出社した社員には、朝食を無料で提供しています。代休を取ることも奨励していて、休日に見た映画の半券を提出すると補助金がもらえる制度も設けられました」
経営幹部は、自社の社員の行動形態をよく知っている。賃金の発生する勤務時間を映画鑑賞に費やされるより、休日に見た映画に補助を出すほうが、会社としての出費は少ない。
また、現場を束ねる部長クラスと経営幹部とでは、残業に関する捉え方は異なるという。
「直にクライアントに相対する部長としては、売上を上げなければならず、仕事の質を落とすわけにはいかない。ある部長が副社長に『残業削減と売上とどっちが大事なんですか!』って聞いたら、『残業削減だ!』という答えだったとのこと。ですけど、なかなかそうはいかないのが実情です」
見過ごされた異常な残業
そうした状況で、高橋さんには、さまざまな重圧がのしかかっていた。
「新人社員はタイムスケジュールを組まれて、勤務は管理されています。電通的な働き方のペースを掴むのは、入社2~3年経ってからでしょうね。自分の場合は新人の頃から、会社にいると仕事を言いつけられるので、なるべくクライアント先に入り浸っていました。彼女の場合、配属された部署の性質や、本人の責任感の強さから、そういうことはできなかったのでしょう」