サムスン、アップル取引切りの真相と部品メーカー脱皮のカギ
以前、本サイトの記事「アップルの“部品メーカー”サムスン外しで囁かれる帝国の崩壊」でも報じたとおり、2013年、韓国サムスン電子の半導体設備投資額が半減するのではとの観測が広まっている。背景には、部品を供給してきた米アップルとのスマートフォン(スマホ)訴訟があるのは明らかだが、業界関係者は「それだけではない」と語る。世界の覇権を握るサムスンが機器メーカーへの脱皮を図っていることに起因しているようだが、その道のりは平坦ではない。茨の道が長く続きそうだ。
●「本来は」半導体メーカーだった「はず」
「サムスンといえば半導体メーカー」
これは同社の過去の決算書をひもとけば明らかだ。例えば、わずか1年前の11年10~12月期業績の営業利益の内訳は、スマホを中心としたIT機器部門と半導体部門は2兆ウォン超でほぼ同額。スマホが普及して、世界首位の座を争いながらも、利益額ベースでは半導体とほぼ同等にすぎなかったのである。
それが直近の12年7~9月期では営業利益約8兆ウォンの内、5兆6000億ウォンがIT機器部門。半導体はわずか1兆ウォン程度にとどまった。四半期ベースでは最高の営業益の立役者がスマホであることは明白だ。
半導体は営業利益率こそ2ケタを維持するが、売上高はアップルの新型スマホ「iPhone 5」から部品を締め出されたこともあり、売上高は前年同期比で8%の減収となるなど陰りがみえる。全社売上高の半分までも稼ぎ出すに至ったスマホ部門とは対照的だ。
前出の社員は「半導体規模は縮小する傾向にあるのでは」と語る。これまで半導体部門は社内のスマホやパソコンなどの応用機器の動向とほとんど関係なく、機動的に動いてきた。それが強みであり、投資も柔軟にできた。ただ、スマホが強くなり、社内の序列では半導体部門がIT機器部門の下になりつつある。開発や投資が、完全に自社のスマホの動きに左右されるようになっている。
証券アナリストも「技術開発の速度も、一時期に比べてスローダウンしていると聞く。今の状態では、NAND型フラッシュメモリーは東芝に押され気味。DRAMも、エルピーダが無事なら危うかったかもしれないのでは」と語る。
●アップルに強気で勝負できるのは、収益構造転換の象徴
逆に言えば、もはやサムスンは「部品屋」から脱皮し、自他共に認める機器メーカーになったということだろう。実際、iPhone 5向けの初期出荷分の供給も「切られた」のは事実だが、サムスンが価格交渉で強気に出た末の結果。年間で10兆ウォン以上の部品を供給していたアップル相手に、一歩も引かない交渉に乗り出せたのも、収益構造の転換があったからだ。
米調査会社の調べでは、サムスンの7~9月期のスマホ出荷台数は5600万台を超え、前年同期に比べて倍増した。しのぎを削るアップルを抑え、3四半期連続で世界首位を維持する。
●自ら生み出せるか「新マーケット」
だが、機器メーカーとして常勝企業を目指すサムスンに立ちはだかる障壁は、決して低くないとみたほうがいい。テレビもスマホもタブレットも、サムスンが創造した市場ではない。常に後発で、機動的な投資による規模の大きさとウォン安という為替の追い風で、競合にせり勝ってきたのが現実である。名実共に総合電機メーカーとして世界に君臨するならば、「新たな市場」を自ら生み出せるかがサムスンに問われることになる。
(文=江田晃一/経済ジャーナリスト)