(右)『完全自殺マニア』(社会評論社)
訴訟の経緯については日刊サイゾーの記事(『出版社の信用が完全崩壊! 太田出版が『完全自殺マニュアル』スラップ訴訟で返り討ちに』)を参照いただくとして、今回ここでは、本事件の決定の内容からパロディ表現と著作権侵害の線引きについて考えてみたい。
●東京地裁申し立て却下の内容をおさらい
まず、東京地裁が申立て却下の決定を下した理由をみてみよう。
「債務者カバー(『完全自殺マニア』)が債権者カバー(『完全自殺マニュアル』)に依拠したものであることは認められるものの、債務者カバーと債権者カバーとの共通部分は、いずれも表現それ自体ではない部分か、あるいは表現上の創作性が認められない部分であり、しかも、全体的にみても、債務者カバーが債権者カバーの表現上の本質的な特徴を直接感得させるものであるとは認められない」
上記の内容を要約すると……
(2)両カバーの共通部分を個別に比べてみても、その個別は表現ではない、あるいは表現であっても創作性はない。
(3)さらに両者のカバーの全体を見比べても、同じものとは感じ取れない。
ゆえに、『完全自殺マニア』のカバーは『完全自殺マニュアル』のカバーを翻案したものではないから、申立ては却下するということである。
●太田出版側の申し立てが却下された過程は……?
次にこの決定を導き出していく過程を見ていこう。まず、この仮処分事件の争点は3つある。
(イ)パロディによる違法性阻却。
(ウ)差し止めの必要性はあるか。
今回、東京地裁は(ア)の段階で翻案ではないとし、(イ)、(ウ)は検討するまでもないとの決定に至った。
では、(ア)について具体的にどのような争いとなったのか。基本的に裁判は、この案件に関する同様の事件・ケースの判例を元にして、争点を判断するポイントがどこになるかを、双方が主張し合うという手順で進められる。今回の案件では、01年に判決が出た江差追分事件(著作権のひとつである翻案権の侵害有無が争われた民事訴訟事件)の判例に沿って、双方が主張を巡らせた。
そのポイントとなったのが、
(B)共通部分における『完全自殺マニュアル』カバーの創作性
(C)表現上の本質的特徴の感得の可否
である。