「事前に文藝春秋、筑摩書房、中央公論新社など名だたる出版社が出ないことは聞いていた。しかし、会場に来て驚いたのは、大手が出店していないどころか、文芸書は河出書房新社、語学書は白水社、ビジネス書は明日香出版社と、それぞれのジャンルに1社しか出ていなかったんです」
そう驚くのは、何年も出展してきた人文・社会科学系の出版社の営業担当者だ。ここ数年、単独ブースで出展する出版社が減少してきていると言われてきたが、今年のありさまは例年にないほどひどいものだった。
どれだけ出版社が少なかったのか。TIBFの会場図(PDF)を見てもらえれば一目瞭然だ。さすがに業界トップスリーの講談社、小学館、集英社は出展していた。しかし、ブースの規模も展示内容も以前に比べて華やかさに欠けた上に、総合出版社である小学館は児童書ゾーンでブースを展開するのみ。ハースト婦人画報社、徳間書店も会社の規模に見合わない小ブース。さらに、河出書房新社1社と同じ広さのブースに角川グループ関連10社がまとまって出展している。会場図をご覧になった読者の皆様に伺いたい。果たして、ご存じの出版社がどれほどあったのかと。
ある出展社の担当者は「弊社のブースに来られた一般読者の方に『新潮社のブースはどこか』と聞かれ、残念ながら今回も出展していませんと答えると、がっかりした様子で去って行きました」と話す。こうした趣旨の問い合わせは、たびたびあったという。
そんな状況下で唯一救いだったのが、人文・社会科学書のゾーンだ。岩波書店、平凡社、みすず書房、国書刊行会、吉川弘文館、東京大学出版会といった版元が単独出展したほか、大学出版部協会、歴史書懇話会、国語・国文学出版会などの団体による出展もあった。一般客にとっての初日となった7日には、「書物復権8社の会」のブースに長蛇の列ができていた(写真)。
なぜ著名な出版社の出展が少なかったのか。そのひとつの要因が、2011年の東日本大震災に際し運営と出版社の間で起こったトラブルだと指摘するのは、出展する老舗出版社の営業担当者。