大阪市内で記者会見した岩田聡社長は、「有力ソフトの投入、携帯型ゲーム機とテレビゲーム機の開発部門統合による開発効率向上などにより、14年3月期は1000億円以上の営業黒字を目指す」と強調した。
だが、エースの3DSも期待のルーキー・Wii Uも販売不振は深刻。Wii Uに至っては、岩田社長が「年明け以降、勢いがない」と、思わず漏らすありさま。ゲームアナリストは「それで1000億円以上の営業黒字なんて、寝言としか思えない」と苦虫を噛み潰している。
「背水の陣」「V字回復の切り札」として投入したWii Uが、「新発売のゲーム機を求めて開店前から行列」と報じられ、任天堂社内がWii U人気に酔ったのは、たった3週間だった。
ゲーム産業リサーチのメディアクリエイトによると、最初の3週間はWii(旧型機)発売時と並ぶ勢いだったが、4週目に早くも息切れし、5週目はWiiと22万台以上の差が開いた。Wiiは6週目以降も上昇を続けたが、Wii Uは6週目から下降したという。
ゲーム関係者は「3週間のWii U人気は任天堂ファンと初物好きユーザによるもの。それでさばけたのが50万台強で、その後が続かなかった。つまり、一般のゲームユーザには、ほとんど魅力もインパクトもなかった証し」と話している。
●売れないのは、革新性を理解できないユーザのせい?
ところが、岩田社長の認識は違うようだ。
昨年12月5日、発売前の説明会で岩田社長は「新たな娯楽体験を提供できる革新的なテレビゲーム機。お客様に必ず満足していただけるはず」と、胸を張った。
Wii Uは、06年に発売して大ヒットしたWiiの後継機。タッチパネル式のモニタをコントローラに装備したのが特徴で、テレビに接続しなくても単独で遊べるのがミソ。インターネットに接続してゲームの攻略法や質問をサイトに投稿できるSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)機能「ミーバース」も初搭載、これまで弱いとされていた交流機能も強化した。
それが先月30日の記者会見では「Wii Uは既存のゲーム機に比べ、革新的な面白さが伝わりにくい」と、販売不振の要因を釈明した。見方によれば、Wii Uは「進歩的すぎた欠陥品」だったと自ら認めたことになる。
それはさておき、岩田社長は、自信作の想定外の不振は「Wii Uの革新的な面白さがユーザに伝わっていない」のが要因と考え、PR不足に苛立ちを募らせているようだ。
岩田社長は先月中旬、日本経済新聞の取材に対して、次のように答えている(以下、要点のみ)。
・人は革新性に後から気づくものだ。携帯型ゲーム機で初めて2画面を装備したニンテンドーDSも、最初の評価は散々だった。DSは勝ち目がないと誰もが思った。だがDS Lite(DSの上位機)によって、そうした評価が覆った。すべて後から「ああ、そうだったのか」と、わかってもらえるものだ。
・私は、家庭の中でのテレビゲーム機の在り方を変えようとWiiを開発した。このWiiを、もっと高い次元で充実させたのがWii Uだ。
・Wiiのチャレンジは「リビングルームへ、もう一度家族全員が集まって遊ぼう」という「お茶の間復権」だった。リビングルームで家族の交流を促す「ソーシャルゲーム機」がWiiの目的だった。これに見事成功した。
・ところが、ゲームでテレビを占有することに不満を抱える家族もいる。ゲームをしない人にとって、ゲームをする人はテレビの邪魔だから。ならば、家族がテレビを見たい時は、リビングに残ったままゲームの続きをコントローラ画面で楽しめるようにすれば、この不満を解決できる。それがWii Uのコンセプトだ。
・テレビとコントローラ画面。2つの目をユーザに提供することで、まったく新しいゲームを体験できる。それがWii Uの革新性だ。