岩田社長はWii Uに込めた「こうしたコンセプトと革新性を、ユーザが理解できていない。だから売れない」と、思っているようだ。
これに対して、ゲームアナリストは「革新性を理解できないユーザが悪いと言わんばかりの自己陶酔的な販売不振要因分析であり、過去の成功体験にも依り過ぎている。視野狭窄に陥った岩田さんには、ゲーム市場の潮流が見えていないようだ」と批判している。
●SNSゲームの台頭
任天堂は、テレビゲーム機という盤石のプラットホーム戦略でゲーム市場のイノベーションを先導してきたが、市場環境の変化が盤石だったはずのプラットホーム戦略をガラパゴス化させ、同社のビジネスモデルを環境変化に追随できなくさせているようだ。
ゲームの市場環境は、この5年間で激変した。テレビゲーム機は1983年の「ファミコン」登場以来、一定のパターンで成長してきた。ゲーム各社は5〜6年に1度の頻度で新型モデルを投入し、ユーザの支持を得られたベンダが高いシェアを獲得できた。
だがそれは04年までの市場環境だった。それ以降、Wii(任天堂)、プレイステーション3(ソニー・コンピュータエンタテインメント)、Xbox360(マイクロソフト)が3つ巴のシェア争いを展開している間に、市場環境が激変した。
変化の引き金になったのが、SNSのおまけのようなかたちで始まった、ソーシャルゲームの台頭とスマホの普及だった。
これらはハードを問わない汎用的なプラットホームであるため、ゲーム以外にも多様なアプリやサービスを利用できる。しかもゲームユーザにすれば、どこでも、いつでもスマホで安くゲームができる時代になったわけだ。テレビのある場所でしか遊べない不便さから解放されたといえる。
●クローズドに固執する任天堂
一方、任天堂はクローズドなプラットホーム戦略に固執してきた。04年まではそれが同社の強みだったが、ここ数年では弱みに変化した。同社はそれに気が付かなかった。
ハードとソフトの両方を社内で磨き上げ、巧みにすり合わせた高品質のゲームを、時間をかけて完成させる。それがブランドへの信頼性を高めると同時に、他社が容易に参入できないプラットホームの城壁になっていた。ソフトも高値で飛ぶように売れた。
SNSは、その対極的なオープン型プラットホームといえる。誰でも容易に参入でき、極めて安い値段でゲームが楽しめる。当初は「安かろう、悪かろう」のソフトが氾濫していたが、技術の進化と競争の中で低品質のソフトは淘汰され、今までの常識にとらわれない斬新なソフトも生まれている。おのずとヒット作も続出している。
ゲーム業界では、プラットホームは量を絞ってピンポイント的に「質を維持する」よりも、品質にばらつきがあっても「量を抱える」ほうが、ユーザの多様なニーズに応えられるとの考え方にシフトしてきている。
こんな時代になってくると、任天堂のゲームソフトは、ガラパゴス島のソフト以外の何物でもない。
任天堂ファンを自認するハイテクニュースサイト「エンガゼット」のティム・スティーブンス編集長が、「マリオ以外に野心的なソフトがなく、取り残された気分だ」と嘆くのもうなずける。
●ゲームのサービス化
任天堂の戦略的な誤りが、もう1つある。それは、ゲームソフトを単品売りするだけで、「サービス化」していないことだ。
ゲームソフトに限らず一般消費者向けの情報商材は、その商材データを継続的に利用し、さらにデータを加工して他の商材に再利用できる仕組みが必要だ。ところが任天堂はそうしていない。ゲームソフトは「再利用する経営資源」ではなく、「一回出荷したらそれでおしまいの、売り切りの消費財」としか考えていないからだといわれている。
同社が歯牙にもかけなかったサービス化を行っているのが、SNSやスマホのベンダだ。
例えば、健康関連ではスマホを使って運動データをネット上で管理する「RunKeeper」、NHKの健康番組『ためしてガッテン』が提供している体重を管理する「ガッテンダイエットクラブ」などがある。これはほんの一例。無料や安い料金で利用できるさまざまなサービスが、SNSやスマホでは続々と誕生している。