損失800億円!アルジェ事件で表面化した新興国テロリスク 鹿島・伊藤忠ほか進出企業の苦悩
(「Thinkstock」より)。
「カスバの女」(大高ひさを作詞、久我山明作曲、エト邦枝唄)という古い歌謡曲に有線放送でリクエストが急増している。♪ここは地の果てアルジェリア どうせカスバの夜に咲く 酒場の女のうす情け……。日揮の関係者が現地で涙を流しながら歌った唄である。
日揮の社員を含む多数の日本人が死亡したアルジェリアのテロ事件が経済界に与えた衝撃は凄まじいものだった。治安が悪い新興国での事業展開に大きなリスクが伴うことを改めて思い知らされたからだ。
資源開発に絡む大型プロジェクトを請け負えば業績への貢献は小さくない。だが、危険と表裏一体のビジネスを、これまでのような手法で進めていっていいものなのかどうか。苦悩は深い。
日本貿易振興機構(ジェトロ)によるとアルジェリアに拠点を持つ日本企業は15社程度。外務省によると2011年時点では16社だ。現在はエネルギー関連のプラント設備や高速道路建設が中心だ。今後は自動車など消費財の販売拡大も見込めるだけにアフリカで最重要市場の一つとなる。
【アルジェリアに進出している主な日系企業】
日揮 天然ガス関連のプラント建設
三菱重工業 肥料プラントの建設
IHI 液化石油ガス(LPG)プラントを建設
国際石油開発帝石 天然ガスの生産
鹿島 高速道路の建設
大成建設 高速道路の建設
西松建設 高速道路の建設
ハザマ 高速道路の建設
コマツ 建設機械の販売・修理
伊藤忠商事 プラント事業や化学品販売
三井物産 液化天然ガスの輸出
丸紅 自動車や建機の販売
住友商事 自動車販売
双日 液化天然ガス(LNG)生産工場への機器納入
伊藤忠丸紅鉄鋼 鋼管の販売
NEC 携帯電話会社向けの通信設備の販売
日揮は石油・天然ガスの精製や液化天然ガス(LNG)生産などを手掛けるプラント設計や建設を行うエンジニアリング会社の最大手。アルジェリアには1969年に進出した。高い技術力が認められ、アフリカや中近東など世界約70カ国で2万件以上のプラント建設の実績がある。
三菱重工業やIHIは肥料プラントやLPGのプラントをそれぞれ建設。三井物産はLNGの輸出業務を手掛ける。丸紅や住友商事などの総合商社は自動車販売に力を入れている。家電大手は現地に生産拠点はないが代理店を通じて販売しているケースが多い。
エネルギー関連のビジネスが多いのはアルジェリアがアフリカ有数の資源国だからだ。天然ガスは世界シェア5位。日揮はこれらプラントの設計、建設を行ってきた。
エネルギー関連以外の事業も拡大している。アルジェリアはアフリカの中でも資金が豊富で高速道路の建設が目立つ。
現在、日本企業が手がけている最大の案件はアルジェリアの東西を結ぶ高速道路の建設である。金額でみても日本のゼネコンが海外で受注した過去最大のプロジェクトだが、リスクの高い案件でもあった。
アルジェリア政府が主導する国家プロジェクトで東はチュニジア国境から西はモロッコ国境までを結ぶ、国内を東西に横断する総延長1200キロメートルの高速道路を建設する計画だ。
東、中、西の3つの工区に分割され、東工区400キロメートルを鹿島、大成建設、西松建設、ハザマ、伊藤忠商事の共同企業体(JV)が受注した。事業費は5400億円で、過去最大の案件となった。