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西武HDへのTOB、サーベラス敗戦の理由とは? 露呈した日本企業と海外投資家の溝

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西武
西武HD傘下のプリンスホテルが運営する
「ザ・プリンス・パークタワー東京」
(『Wikipedia』より)
 西武ホールディングス(HD)株式に対する、筆頭株主サーベラスによるTOB(株式公開買付)が5月31日に終了。翌6月1日に結果が公表された。

 フタを開けてみれば、応募株数は総議決権数のわずか3.04%。今回のTOBは当初は4%を上限として開始され、途中で12.2%に引き上げられたが、結局当初の上限目標にすら届かなかった。

 TOB前の状態でサーベラスは32.44%を保有していたので、今回の買い増し分と合計をすると35.48%。一応拒否権を持てる3分の1以上にはなったが、そもそも32.44%でも実質的に拒否権発動に必要な議決権は確保していたと言っていい。

 株主総会で議決権が100%行使されることなどまずあり得ない。議決権行使割合が97.3%以下なら32.44%でも総会におけるサーベラスの議決権は3分の1を超える。平均的な議決権行使割合はおおむね7~8割だ。議決権行使割合が63.6%を下回ったら、32.44%のままでも過半数超えだが、現実的にはそのような事態になる確率は高くはない。

 今回のTOBで保有割合が35.48%に上がったとはいえ、この保有割合で過半数を抑えようとすると、議決権行使割合が69.5%を下回るか、他の株主の賛同を得る必要が出てくる。結論から言えば、この程度の増加では意味がない。“大山鳴動して鼠一匹”としか言いようのない結果に終わったと言っていい。

 サーベラスは一貫して「ガバナンスと内部統制の正常化」を訴え続けたが、これがメディアはもちろん、他の株主にもまったく理解されなかったことこそが、今回のサーベラス惨敗の要因と言っていい。日本人の目には、サーベラスが言うほど、西武HDのガバナンスや内部統制がずたずたであるようには見えなかったし、なぜサーベラスがそこまで問題視するのか、その根拠が理解できなかったからだ。

 1年前までは株式上場に向け、良好な関係を保ってきたとされる西武HDとサーベラス。その関係がぎくしゃくし出したきっかけは、IPO(新規公開)価格で意見が対立したことにある。

●模範解答「株価は市場が決めるもの」がサーベラスを刺激?

 両社の主張や一連の報道を総合すると、「株価は市場が決めるもの」という立場をとる後藤高志・西武HD社長の姿勢に、サーベラスが決定的な不信感を抱いたということだろう。

「本来の企業価値を大幅に下回るIPO価格が、後藤社長主導で決められようとしている」とサーベラス側が疑ったことはほぼ間違いない。

 だが、「株価は市場が決めるもの」という、極めて模範的な発言をしたにすぎない後藤社長を、なぜサーベラスがここまで疑うのか。「IPO価格の決定に積極的に関与しない」と言っているだけなのに、「積極的にIPO価格の引き下げを主導している」とまで疑うのはあまりにも突飛だし、そのうえに「筆頭株主である我々とのコミュニケーションが正常に行われていないということは、ガバナンスも内部統制もずたずたである証拠だ」と言われても、理解しろというほうが無茶だ。

 今回の再上場に伴い、西武HDが公募による株式の新規発行を予定していなかったことはまず間違いない。もしも西武HDが公募を予定していたら、公募によって調達する資金の使途として詳細な事業計画の立案をしたうえで、西武HD側が相当積極的にIPO価格決定に関与していなければおかしい。

 とはいえ、現実には、公募があろうがなかろうが、「自社の企業価値についての説明は尽くすが、IPO価格決定は証券取引所のご判断にお任せする」という以外の回答など、あるはずがない。

 そもそも日本では、IPO価格は類似業種の上場会社を選び出し、そのPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)の平均値から割り出した金額の15%引きという決め方をする。この決め方以外の方法でのIPO価格を主張したところで、取引所には相手にされない。だからこそ、新規公開を目論むベンチャーの経営者は、自社を株価が高い業種の会社と同じ業種として扱ってもらえるよう、事業内容を調整し主張する。

 サーベラスは保有資産の含み益がIPO価格に反映されてしかるべきだと考えていたフシがあるが、それは現行のルール下では無理だ。鉄道会社である西武HDに、類似会社の選び方を工夫する余地もあるわけがない。だから、「ご判断をお任せする」のは当たり前なのだ。