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ビジネスマンを惑わす、自己啓発のウソ・ホント 第6回

自己啓発ビジネスの餌食になる人々…夢実現のために、能力や資格より大切なこととは?

文=鈴木領一/コンサルタント

自己啓発ビジネスの餌食になる人々…夢実現のために、能力や資格より大切なこととは?の画像1「Thinkstock」より
 出版不況の最中、堅調な売り上げを続けているのがビジネスマンなどに向けた「自己啓発本」というジャンル。「成功するための秘訣」が収められた本を繰り返し読んでは、いつまでたっても成功しない自分に不甲斐なさを感じている人は少なくないはずだ。変わらない自分のどこに問題があるのか?

 そこで、自己啓発理論を研究しつくしたビジネス・プロデューサーの鈴木領一氏が「自己啓発」「能力開発」の本質をレクチャー。話題の書『100の結果を引き寄せる1%アクション』のエッセンスを交えながら、「自分が求める成果を出すために、本当にやるべきこと」をお伝えする–。

「私の夢はホテルのオーナーになることです。どうすれば夢が実現するでしょうか?」

 コーチングをしていると、かなりの頻度で、このような相談を受けることがあります。こういった相談をされる方の多くが、なんらかの自己啓発書やセミナーに影響されているようです。私はこのような相談を受けると、究極の質問を1つします。それは、

「では、今日、何をしましたか?」

です。

 この究極の質問をして具体的な答えが出てくる人は、間違いなくその夢に向かって進める人です。しかし、9割の人が、「え?」という反応をします。「何をすればいいかわからないから、相談しているのです」と。あなたは、この反応のおかしさがわかりますか?

 例えば「ホテルのオーナーになりたい」という夢を持っているなら、少なくとも“ホテル”に関することや“お金”に関することを何かしているはずです。

 一流のホテルを訪れてサービスの質を確認したりするのも良いでしょう。時間がなくて行けないなら、ネット検索をして世界中のホテルの情報を取得することもできます。それをするためには特殊な能力も資格も必要としません。

 オーナーになるためにはお金が必要ですから、お金の運用や投資に関することを学ばなければなりません。投資家が参加するセミナーを探したり、本を読むこともできるはずです。やろうと思えば、どんな小さなことでも、すぐにできるのです。

 しかし、「ホテルのオーナーになりたい」と語る人の大半が、何もせず、ただ毎日その夢を漠然と妄想しているだけなのです。これはホテルのオーナーになりたい人だけではありません。お金持ちになりたい、起業して成功したい、稼ぐコンサルタントになりたい、世界一の○○になりたい、そのような大きな夢を語る人の多くが、「今日、何もしていない」のです。

 大きな夢を語って何もしない人は、「夢を実現する技術をもっと知る必要がある」と考えている傾向が強いです。自分の夢が実現しないのは、成功者が使っている「夢を実現する技術」を知らないからだ、と考えているのです。ですから、彼らの行動は、「夢を実現する技術」を探すことにフォーカスしていて、夢を実現することにフォーカスしていません。完全に自己啓発ビジネスの餌食になった人の特徴といえます。

「恋愛タイプ」しか成功しない

 私はコーチングの経験から、夢を語る人を3つのタイプに分類しています。その中で、現実に夢を実現するのは1つのタイプしかありません。では、その3タイプを順番に説明していきましょう。

(1)逃避タイプ

 このタイプは現状から逃げるために「夢」を口実にしようとするタイプです。「サラリーマンが嫌だから独立したい」と言う人に多いです。現状から逃れるために消極的な選択をしているだけで、積極的に「夢」に向かう姿勢はありません。「なんのビジネスで独立するのですか?」と質問しても、「まだ探しています」としか答えられません。

 起業塾のような勉強会やビジネススクールに参加している人にこのタイプが多く、ずっと起業の勉強をし続けても会社を辞めることはありません。口から出てくる言葉は常に現状の不満であり、そこから逃避したいという願望のみです。しかし「夢」に向かって一歩踏み出す勇気もなく、結局、不満を持つ現状に戻っていきます。

 現状の不満だけに頭が満たされた人が夢を実現した例を、私は一度も見たことはありません。

(2)錯覚タイプ

 先ほどの「ホテルのオーナーになりたい」というタイプです。漠然とした夢を抱き続けているのですが、毎日ほとんど何も行動していません

 最近はこのタイプが非常に急増しているのですが、これは自己啓発セミナーの急増とリンクしているように思います。夢を大きく持ちましょう、絶対に実現しますよ、とモチベーションをあおられ、その場の雰囲気で夢を設定してしまった人が、このタイプに陥りやすいです。

 この夢を実現できればカッコイイ、この夢が実現できたら素敵、という雰囲気だけで設定しているにもかかわらず、「夢をイメージすれば魔法のように実現できる」と錯覚しているのです。このタイプは自己啓発ビジネスの良いお客さんです。

(3)恋愛タイプ

 夢を実現するのはこのタイプです。1つのことで頭がいっぱいで、24時間頭から離れることなく、それに向かって毎日行動せずにはいられない状態の人です。まるで熱烈な恋愛をしているように「夢」に夢中になって、どんな苦労や逆境も乗り越えていきます。

 このタイプに、「今日、何をしましたか?」と聞けば、とめどもなく“やったこと”が出てきます。些細なことでも。

 それはなぜか。好きだからです。好きならば周囲がとめたとしても、その夢に向かって行動するものです。これは恋愛と同じですよね? あなたには経験がありませんか?

 夢を語りながら何もしない人は、結局、それが好きでないことを証明しているにすぎません。

 好きでもないのに、「カッコイイから」「成功者っぽいから」という理由だけで、好きでもない夢を設定している人が実に多いのです。それは単なる見栄以外の何ものでもありません。

「好き」であることの絶大なパワー

 私のクライアントで猫が好きな人がいました。数年前に会った時からいつも猫のことばかり話していて、「猫からもらう癒やしを多くの人に知ってもらいたい」といつも言っていました。私はこの人は必ず成功するだろうなという直感がしました。

 そして現在、彼女は都内に「猫カフェ」をオープンさせて成功しています。そして今でも猫について熱く語っています。猫にずっと恋をしているのです。

 彼女と会った同時期に、「カフェのチェーン店をつくり成功したい」と言っていたクライアントがいました。彼に例の質問、「今日何をしましたか?」と聞いた時、彼は何も答えられませんでした。そればかりか、カフェにあまり行ったこともなく、コーヒーの種類もドリップマシンについても何も知りませんでした。興味がなかったのです。

 彼は間違いなく「錯覚タイプ」でした。

 そこで私はコーチングを行い、彼が時計について非常に詳しいことに気づきました。腕時計が趣味で、特に中古の情報に精通していました。彼はそれを単なる趣味としてとらえていたようですが、私は「これはビジネスになりますよ」とアドバイスしたのです。

 その後、彼はできるところから少しずつチャレンジしていき、今では中古の腕時計販売で成功するまでになりました。その間、彼は多くの苦難を乗り越えましたが、好きなことだったので辛抱強く乗り越えていきました。彼は「錯覚タイプ」から「恋愛タイプ」にシフトして成功したのです。

「好き」にはとんでもないパワーがあります。人は好きなことには時間を忘れ、苦労も苦労と思わないのです。傍から見たら「非常に努力している」と見えることでも、本人は何も努力と感じていないものです。

「好きなことをしても食べていけないよ」という言葉は真実ではありません。成功している人はみな、自分がやっていることが「好き」であり、だからこそどんな障害も突破してこられたのです。

 松下幸之助さんの言葉で「成功したければ成功するまで続けること」という言葉がありますが、成功するまで続けるパワーの源泉は「好き」にあります。逆に好きなことでなかったら、少しの挫折で心が折れて諦めてしまうものです。

「食べていけるようになるには好きなことをしなさい」が本当の真実なのです。
(文=鈴木領一/ビジネス・コーチ、ビジネス・プロデューサー)

鈴木領一/コンサルタント

鈴木領一/コンサルタント

 思考力研究所所長。行政機関や上場企業の事業アドバイスをはじめ目標達成のためのコーチングも行っている。プレジデント誌などビジネスメディアへの記事寄稿多数。また100の結果を引き寄せる1%アクション(サイゾー刊)は、氏のコーチングメソッドを初公開した書籍で、主婦から経営者まで幅広い層に支持されロングセラーとなっている。また、出版プロデュースの活動も行い、代表作には小保方晴子氏の『あの日』(講談社刊)がある。

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