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ただ、現在の国立大学法人法では、大学による直接出資は技術移転機関(TLO)以外には禁じられているため、直接出資は2014年の通常国会での同法改正後となる見通し。
アベノミクスでは「第3の矢」である成長戦略の実行が課題である。成長戦略とは新たなビジネスを創造するなど民間企業の活動を活発化させ、雇用や税収の増大を図ることである。このため、法改正によってインフラ整備、バイオ・医療、エネルギーなどの分野で大学と企業の共同研究を促し、早期の事業化のために設立したベンチャー企業に大学が直接出資できるようにするのである。大学にある技術を使ってイノベーションを起こしていく狙いでもある。
「お題目」としては正解である。しかし、思い出してみよう。小泉政権の初期の頃にも大学発ベンチャーの設立を盛んに支援してブームを起こしながら、株式公開までこぎ着けたり、社会に役立つ技術・サービスを提供できたりしているベンチャーはほとんどなく、死屍累々である。国が税金を使って支援しても、なんの成果も出ていないのだ。
筆者は大学発ベンチャーの設立や活動は否定しない。むしろ新たなことに挑戦してイノベーションを起こそうという志には共感を覚える。問題は、マネジメントにあると言いたいのである。
日本の国立大学法人には、マネジメントという概念がほとんどない。大学におけるマネジメントとは、社会や時代が求めるニーズに合った研究・教育を展開していくために経営者自らが戦略を構築し、ミッションを維持させるための一定の収益を確保して組織発展させていくことである。まず、国立大学法人には経営者がいない。競争が激しい民間企業(株式会社)では、適任と見られる人物が株主の付託を得て経営者に選出され、業績によって経営責任が問われる。
ところが、国立大学は法人化され、一応企業経営の発想を採り入れながら、経営トップである総長・学長といった役職は選挙で選ばれている。そして大学の学長選挙は適任者が選ばれるとは限らない。たとえば、大阪大の総長選挙は、医学部、理学部、工学部出身者が輪番でトップに就けるように話し合いによって票を融通し合っていたし、しかも、経営改革をしない人をリーダーに選ぶようにしていた。話し合いが成立しない場合は、文学部のタレント的教授を祭り上げ、陰で医学部や工学部の実力者が大学を操るシステムだった。経営改革を掲げるような総長候補者が出たケースもあるが、皆で話し合ってその候補者に票が集まらないように「裏工作」した。
●古い経営を引きずる大学
こうしたシステムでもやっていけるのは、国からの補助金で運営されているからである。「国立」であるため潰れないので、前近代的な古い経営システムでもやっていけるのである。
経営者に限らず、大学で働く教員や研究者の採用も前近代的である。文部科学省が管轄する独立行政法人・科学技術振興機構(JST)が運営するサイト「研究者人材データベース」というものがある。全国の大学の研究職の公募情報が満載されているが、「ここに載る求人情報のうち9割近くは、採用する人物が事前に内定しています。国立大学の研究者採用で公正性を担保するために公募という形を取っていますが、アリバイづくり的な意味合いが強い」と、ある公立大学教授は打ち明ける。
実際、ほとんどの大学で教員の採用は、有力研究室によるコネであり、本人の能力や意欲に関係なく採用が決まる。企業経験者の採用も、有力企業の推薦があるかないかが大きな影響力を持つ。この結果、日本の著名大学でも、能力と人格に問題のある教員が採用されて跋扈している。大学で研究費の不正利用や論文の盗用、セクハラ、パワハラなどの破廉恥で稚拙な「犯罪」が多いのは、適格者を採用しないシステムも影響しているのだ。
さらに大学の判断基準はほとんど「減点主義」にある。研究費の利用でも「申請、書類審査、面接、中間審査、最終審査、事後審査を何度も繰り返してチェックし、まるで日本の受験システムそのもの。研究費を使って出張した際にはカラ出張防止のため、訪問先近くのコンビニに行って、何か買い物してレシートを貼り付けてくださいと言われることもある」(有名国立大学教授)との指摘もある。
アリバイづくりのためにコンビニに立ち寄れとはお笑いであるが、こんなに厳しくチェックしても研究費の不正使用が後を絶たないのは、やはり、常識が欠如している不適格者が多いからと言わざるを得ない。そもそも、減点主義による審査で新たなイノベーションが生まれるとは思わない。減点主義ではリスクのある研究に取り組めない。新たなイノベーションは、失敗の積み重ねによって生まれるのではないだろうか。
要は、国立大学法人は戦略的な組織として体をなしていないのである。そんなところに1000億円もばらまくなど、血税を捨ててしまうような愚行としか言いようがない。まずは組織改革をして、適任者をトップに就け、適材適所で人材を採用できるように改めることから始めない限り、「大学の知恵」をイノベーションのために有効活用することはできない。
(文=井上久男/ジャーナリスト)