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“元祖ブラック企業”稲盛和夫の京セラ〜1週間家に帰れない、奴隷システム、高退職率?

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『生き方 人間として一番大切なこと』(著:稲盛和夫/サンマーク出版)
 「365 日24 時間死ぬまで働け」(『理念集』より)と社員を自殺に追い込む……ワタミフードサービス株式会社(ブラック企業大賞)
 「売り上げがとれなければ給料も休みも与えない」と店長を自殺に追い込む……株式会社クロスカンパニー(アパレル業界賞)

 先日、「ブラック企業大賞2013」が発表された。過酷な労務管理や劣悪な労働環境が次々に暴かれ、ブラック企業に対する社会の目も厳しくなってきた。

 だが、その一方で、メディアでは、ブラック企業の元祖ともいうべき経営者が、やたらチヤホヤされている。京セラ・KDDIの創業者・稲盛和夫のことだ。稲盛といえば、京セラ、KDDIを成功させ、2010年、78歳にして日本航空の再建を引き受け、会社更生法の適用から2年で営業利益2000億円というV字回復を成し遂げた。

 このため「名経営者」として、人生論にも関心が集まり、10年前に出版された『生き方 人間として一番大切なこと』(サンマーク出版)は100万部を突破した。

 稲盛式経営のポイントは、フィロソフィ(企業哲学)とアメーバ経営。社員としての判断基準・フィロソフィと、組織を小集団(アメーバ)に分け、独立採算で運営するアメーバ経営で「全員参加経営」を実現させる……こう書くと聞こえがいいが、「全員参加経営」の実情は社員にとって過酷なものだ。

 「一言でいえば、それはまるで軍隊であった。京セラでは、毎日朝礼が行われる。中でも、毎週月曜日に行われる全体朝礼は、軍隊のそれ以外のなにものでもない。前の会社の研修で、自衛隊に体験入隊したときのことを思い出した」とは京セラに中途入社したものの、その社風に耐えかね退職した技術マンの言葉だ。

●京セラのブラックな経営実態

 京セラの内部告発本『京セラ 悪の経営術』(瀧本忠夫/イーストプレス/1999年)に、その実態が明らかにされている。

 「京セラで驚いたのは、とにかく残業時間が恐ろしく長いことである。さらに、ほとんどの人が朝早くから来る」

 「京セラ社内では『家庭を考えるようでは、京セラ幹部は務まらない』という言葉がある。事実、長く京セラにいる社員は『最近、少しは“まし”になったが、昔は月曜の朝会社に出てきたら、土曜日の夜まで家に帰ったことはなかった』と言っていた」

 稲盛式経営は、アメーバ単位で時間当たりの採算性が計算される。「売上をより多く、出費(人件費を含め)をより少なく」する競争を余儀なくされる各アメーバの責任者は、数字が悪ければ降格だ。

 「稲盛名誉会長は責任者クラスが大変困るようなシステムを作り上げ、そのシステムにより、責任者クラスが率先して従業員を奴隷のごとくこき使わざるを得ないような手をよく考えたものだ」(同書)。それによる実質連続32時間の労働で、帰宅中に居眠り運転で事故を起こした社員もいたという(幸いにも無事だった)。

 「京セラは、おそらく日本の企業の中で、従業員が定年前に退職していく率のかなり高い会社であると私は思う。(略)過去には40人入った社員が翌月には全員辞めてしまったことがある」(同書)

 それでも、稲盛への信頼は絶大。サービス残業、高い離職率、ワンマン経営者への絶対的な忠誠……これはまさにブラック企業。

●滅私奉公を求める稲盛式経営

 ブラック企業では、ワンマン経営者が社員を独自の理念で洗脳支配するケースが多い。独自の理念が社員の生活までも束縛し、心身ともに追い込まれてしまうのだ。

 稲盛の人生論『生き方』もワンマン経営者ならではの、危うい文言が目立つ。

 「自分の可能性を信じて、現在の能力水準よりも高いハードルを自分に課し、その目標を未来の一点で達成すべく全力を傾ける。そのときに必要なのは、つねに『思い』の火を絶やさずに燃やし続けるということです。それが成功や成就につながり、またそうすることで、私たちの能力というのは伸びていく」(同書59ページ)

 「欲、すなわち私心を抑えることは、利他の心に近づくことです。この自分よりも他者の利を優先するという心は、人間の持つすべての徳の上で特上、最善のものである」(同書154ページ)

 「人間が本当に心からの喜びを得られる対象というものは、仕事の中にこそある。(略)働くことで得られる喜びは格別であり、遊びや趣味では決して代替できません。まじめに一生懸命打ち込み、つらさや苦しさを越えて何かを成し遂げたときの達成感。それに代わる喜びは、この世にはないのです」(同書158ページ)

 強い「思い」と「利他の心」があれば、「仕事」を通じて人生の喜びが得られる……これは会社に自分を捧げる社畜になれば幸せになれる、というブラック企業の論理そのものだ。しかも、「生き方」というタイトルにもかかわらず、その内容は仕事のことばかり。人生哲学を語っているようで、その実、企業哲学を語り、企業の論理を読者に押し付ける一方なのだ。

 稲盛が厄介なのは、臨済宗妙心寺派円福寺にて在家得度をしており、仏法の教えに基づいているように見えることだ。ブラック企業の論理も東洋思想という袈裟でくるまれれば、ありがたく見えてしまう。

 稲盛の罪は他にもある。自らが塾長を務める勉強会「盛和塾」で、多くの稲盛チルドレンをつくりだし、ブラックの種をまいていることだ。盛和塾の塾生は、中小企業の若手経営者を中心に8000人超、お互いを「ソウルメイト」(魂で結ばれた仲間)と呼び、「お元気さまです!」という新興宗教も顔負けの挨拶を交わす。「社員を犠牲にしてでも、勝ち残る企業が正しい」という企業論理がはびこる現在、「ソウルメイト」たちは、ブラック企業化する大義名分を稲盛式経営に見出しているのだ。