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「街づくりのパナソニック」「医療のソニー」への変身なるか~「立地転換」戦略の勝算

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パナソニック本社(「wikipedia」より/Pokarin)
 最近、新聞や雑誌では、「B to C(一般消費者向け)からB to Bへ(企業向け)」という表現が躍るようになった。つまり、立地(戦略市場)を転換する意味の「リ・ロケーション」が注目されているのだ。この経営戦略が成功すれば、同じ技術を活用しても、売る市場を変えることにより業績が大きく変わる可能性があるからだ。

 立地については、11月7日付日本経済新聞(朝刊)で開始された神戸大学の三品和広教授の連載「事業立地の戦略論」に詳しい。より深く学びたい読者は、同連載や三品氏の著書を読まれればいいだろう。今回は、この概念をより具体化する段階に入った日本企業の動きに注目してみた。

 そもそも、事業立地の重要性に気づいたのは、ハーバード・ビジネススクール(MBA=経営学修士)教授のローラン・クリステンセン氏やケネス・アンドリューズ氏であるが、どうも、最近、経営者たちから話を聞いていると、盛んに「立地転換」という言葉を使うので「三品先生の本を読まれたのでしょう」と振ると、この推察が当たっていることが多い。神戸大学名誉教授の加護野忠男氏は以前から「日本企業の特色として、独立した子会社のほうが親会社よりも大きくなってしまった事例が目立つ。親会社が子会社を取り込むのではなく、子会社に任せる経営が戦略上有効である」と説いている。

 例えば、重電機器メーカーの富士電機から分かれ、通信とコンピューターで急成長した富士通や工作機用CNC装置で世界首位のファナック、社名の通りセルロイドメーカーだった大日本セルロイド(現・ダイセル)から写真フイルム事業を引き継ぎ分離独立した富士フイルム(旧・富士写真フイルム)などが有名である。

 富士フイルムは、銀塩フィルムからデジタルへの移行と、それにより生じるフィルム需要の激減に危機感を募らせていた。その結果、電子部品、医療機器、化粧品、サプリメントといった新事業を立ち上げ成功している。つまり、これらの子会社の急成長も立地転換が成功した事例と見ることができる。

 逆にパナソニック電工や三洋電機を完全子会社化し、立地転換に社運を賭けているのがパナソニックの津賀一宏社長である。2019年3月期をめどに、新たに自動車関連で2兆円、住宅関連で2兆円との売上高目標を掲げ、「世界に類のないユニークな会社として復活できる」と新成長をけん引するコア事業として確立する考え。

●新しい発想と技術・サービスよる街づくり

 その構想をかたちにしたのが、神奈川県藤沢市の工場跡地で開発中のスマートシティー(環境配慮型都市)「Fujisawa サスティナブル・スマートタウン」(敷地:約19万平方メートル)だ。ICT(情報通信技術)を活用した警備や電気自動車(EV)のカーシェアリングを導入する。また医療や介護の一体型施設を設け、健康関連情報の一元管理サービスを提供する。14年秋には全面開業する予定。13年度から18年度にかけて、パナホームや三井不動産が建設する戸建住宅1000戸に関連する売上高で約270億円を見込む。売り上げ規模は小さいが、環境配慮型の街づくりを実際に手掛けてノウハウを構築し、他の案件につなげていく狙いがある。

 パナソニックは、18年の創業100周年に向けて、環境貢献と事業成長を両立する「環境革新企業」の実現を目指している。その一環としてパナソニックが事業主となり開発を進める「Fujisawa〜」は、人のくらしを起点としたサービスを中心に、それを実現する空間を設計し、最適なインフラを構築するという新しい発想とプロセスで街づくりを行うプロジェクト。

 この街では、5つのスマートライフ(エネルギー、セキュリティ、モビリティ、ヘルスケア、コミュニティ)にクラブサービス、ファイナンス、アセットマネジメントを加えた8つのスマートサービスを展開し、エコ&スマートを切り口にパナソニックならではのソリューションを提供するという。各戸に太陽光発電システムや蓄電池を設置し、街全体の消費電力の30%以上を再生可能エネルギーで賄う。

 太陽光発電用の太陽電池は、中国メーカーとの価格競争に巻き込まれ苦戦していたが、自社の住宅に設置し、燃料電池や他の節電機器を組み合わせることにより、活路を見いだそうとしている。

 蓄電池については、スマートフォンなどに使われる小型二次電池が、韓国メーカーとの間で繰り広げられた激しい価格競争の結果、競争力を失ったが、立地を変え、住宅にビルトインすることで、独自の市場を切り拓こうという戦略。つまり、買収した三洋電機の技術を、転換した立地で生かそうとしている。

 警備サービスは綜合警備保障(ALSOK)が担当する。人感センサー付きの発光ダイオード(LED)照明と50台の監視カメラを連動させて、不審者の侵入を検知する。また、夜道では人が歩く先を自動的に照明が照らす。警備大手の事業は、企業が主な顧客だったが、同業界首位企業のセコムが家庭に力を入れているように、他社も追随している。藤沢の事例は、立地転換の試金石といえよう。

 学研ホールディングスは、高齢者や子育て支援をテーマとする街区に高齢者住宅と保育所の複合型施設を建設し、15年秋に開業する。隣接の特別養護老人ホーム(特養)を含め、総事業費は20億円を超えるもよう。多世代が交流できる複合型施設の展開を加速する。同社の宮原博昭社長によると、「現在、学研の出版事業は全売上高の40%」しかないという。構造不況の出版業界から立地転換した事例だ。

●好立地でソニーは化けるか

さて、パナソニックと、いつも比較されるのがソニー。一般消費者には、相変わらず電器量販店で肩を並べるAV機器メーカーのライバル同士、といまだに見られている。ところが、ソニーはオリンパスと資本業務提携して以降、着々と医療分野へ立地を転換しようとしている。オリンパスは過去の損失隠しで話題を呼んだが、もともと、高度な技術を有している企業。

 カメラでライバルのキヤノンやリコーが複写機をはじめとする事務機器へ、ニコンが半導体製造装置へと立地を転換し成功を収めたが、オリンパスは内視鏡で医療分野に活路を見いだした。内視鏡市場は大きな市場ではないが、同社は世界で約70%のシェアを占めている。