「個人年金保険」は、定められた運用期間の経過後に年金を受け取れるというものだ。保険商品といっても保障部分は小さく、どちらかといえば金融商品に近い。ひと口に「個人年金保険」と言っても、運用方法の違いによって一般的な「個人年金保険」と「変額個人年金保険」の2種類に大別される。
支払った保険料に応じて一定額の年金が保証されているのが「個人年金保険」だ。安定した年金収入につながる安心感はあるものの、予定利率が低い現在では多額の年金は見込めない。また、将来の物価変動には対応できないというデメリットもある。
これに対して、経済の動向に沿った運用を行うのが「変額個人年金保険」である。運用実績がよければ、将来の年金額が大きく膨らむ可能性はある。しかし、ハイリターンにはハイリスクがつきもの。元本割れの危険もあるのだ。
こうしたリスクをよく理解しないまま契約し、あとで「こんなはずではなかった」と後悔するケースが後を絶たない。銀行員が強引に勧誘したり、十分な説明をしないことも多いようだ。どんな事例があったか、いくつか紹介しよう。
●望んでいない保険を契約してしまった理由
【ケース1】
Aさんは、満期になった定期預金を解約する手続きのために銀行へ行ったところ、保険の勧誘をされた。それを断ると銀行側は定期預金解約の手続きを行わず、日を改めて来てほしいという。後日再び銀行を訪れたAさんは別室に通されて2時間も勧誘を受け、ついに根負けして個人年金保険の契約を交わしてしまった。夫からは「30年も自由にならないお金では、老後の役には立たない」といわれ、解約したいと思っている。
【ケース2】
定期預金をしている銀行から連絡があり、銀行へ出向いたBさん。そこで保険の勧誘を受け、「年金は少ししかない」「元本割れは困る」「病気などに備えて、いつでも使えるお金が必要」と断ったが、行員から「元本割れはしない」「金利が上がったら、いつでも解約できる」と説得され、500万円を払って変額個人年金保険に加入した。ところが、1年後には100万円も減ってしまった。儲けたいなどとは思っていなかったBさんは、定期預金のままでよかったと悔やんでいる。
【ケース3】
Cさんは複数の口座に分散させていた預金(600万円)をひとつにまとめようと、銀行へ赴いた。行員に「年3%の利子がつき、子どもにも残してあげられる」と勧められ、変額個人年金保険の契約をした。しかし、あとになって元本保証がないことや、運用手数料がかかることを知り、びっくりする。契約する時には、そんな説明はいっさい受けなかったので、だまされたような気分である。
このように、望んでもいない保険を契約してしまう人は少なくないのである。
特に気をつけたいのが、変額個人年金保険の年金原資という言葉。「年金原資は保証されている」といわれると、元本が保証されていると思ってしまいがちではないだろうか。しかし、年金原資は年金の元となる資金のことで、元本とはまったくの別物。運用成果が悪ければ、受け取る年金が元本を下回る場合もあるのだ。
ひとつでも多くの契約を取れれば自分の成績がアップするため、行員はごり押しをしてくるものである。ひと月に何十本も売る強者も存在するほどだ。銀行の窓口だと安心できるように思えるが、保険を勧められたら用心しなければいけないといえる。
(文=長尾義弘/フィナンシャル・プランナー)