賃貸住宅に住む人が、給湯器の故障で管理会社に連絡したところ、交換用部品が入手できないのでいつ修理できるかわからないと言われ、ホテルに宿泊するので民法に基づいて家賃減額を要求すると告げたところ、すぐに修理に来たというエピソードが一部SNS上で話題となっている。賃貸住宅で設備が故障した場合、借主は家賃減額という措置を受けることは可能なのか。また、どれくらいの金額の減額を受けられるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
賃貸住宅に住んでいると、エアコンや給湯器、ガスコンロが故障することがある。もし真夏や真冬にエアコンが故障すれば当該住戸での生活が困難になり、ホテルなどに宿泊する必要が生じる場合もある。給湯器が故障すれば入浴ができなくなり、外部の入浴施設を利用したり、場合によっては入浴施設を利用できないためホテルに宿泊しなければならなくなる。ガスコンロが故障すれば自炊ができず、食事を購入したり外食する必要に迫られる。
こうした代替手段を取るには、当然ながら“余計なお金”を払わなければならず、借主としては自身の所有物件ではなく、また使用方法に問題があるわけではなく設備の寿命等が原因であるにもかかわらず、その対応のために想定外の出費を強いられることに釈然としない感情を抱くのは当然ともいえる。
また、故障を受けて貸主や管理会社に連絡したところ、修理業者や交換部品・製品の手配を理由に長期間にわたり待たされ、故障したままの状態が続くという経験をしたことがある人は少なくない。
「東京都内の家賃20万円くらいの大規模マンションに引っ越した際、入居時に敷金や補償金みたいな名目で100万円くらい払わされ、加えて比較的大手のディベロッパーの物件だったため安心していたのだが、入居時点で2つあるエアコンが故障しており、管理会社に連絡してもすぐに交換してくれず、1カ月くらい毎日寒いなかで生活を強いられた。さらに入居して2カ月後くらいにガスコンロも故障し、総入れ替えとなった。浴室の湯船のカビもひどく、交換まで2カ月もかかった。『これで家賃を満額支払わなければならないのはおかしい』と感じたが、家賃減額という発想はなかった」(40代男性)
なぜかスピード解決?
冒頭のSNS投稿者は
<ガイドラインだと家賃の10%減額となっているがホテルに泊まらざるを得ないので差額を負担してもらえないか交渉→なぜかスピード解決>
とも綴っているが、これに対し以下のようさまざまな反応が寄せられている。
<管理会社に半月放置されたエアコン修理、大家さんに家賃減額請求するね、って言ったらソッコー新品が取り付けられた>
<去年給湯器壊れて交換まで1カ月近くかかった時は免責超過した日数分の減額と人数分の銭湯代を請求して払ってもらいました>
<えーこんな法律あるんじゃ もっと早くに知りたかった。普通に2〜3日銭湯行ったよ。おまけに管理会社にはそこの補償はありませんって言われた>
民法611条
果たして家賃減額というのは、実際にあるものなのか。山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。
「確かに、賃貸物件においてエアコンなどが故障したのに、貸主がのらりくらりと修理してくれない場合、家賃の減額を求めたい気持ちになります。実は、令和2年の大きな民法改正の際、『民法611条』は『賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される』と改正されました。ここでポイントは、『減額される』という言葉です。通常、法律では『●●することができる』という書き方をしており、実際に●●を求めるためには裁判を起こさなければならなかったのですが、『減額される』という言葉は、『賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合』、裁判などをしなくても、当然に、賃料が減額されることを意味します(この改正は、正直、驚きました)。
さて、『エアコンなどが故障した場合』が、『賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合』にあたるかどうかですが、昨今のくそ暑い夏を考えれば、エアコンがなければ『通常の生活』ができないわけですから、賃貸物件を『使用及び収益をすることができなくなった場合』にあたると考えることができます。したがって、貸主が修理をのらりくらりはぐらかすようでしたら、では、『通常の生活ができませんので、賃貸物件を使用できないものとして賃料を下げて払います』と宣言しましょう(ただし、実際に、幾ら、減額できるかは今後の実務の累積が必要でしょう)」
管理会社・貸主の行動原理
不動産業界関係者はいう。
「管理会社や貸主側のほうから『設備が故障期間中の分の家賃を減額します』と申し出ることは、まずありません。個人の大家さんのなかには、家賃減額という法律を知らない人もいるでしょうし、『そんなことはできない』と頭ごなしに断る人もいるでしょう。基本的に管理会社や貸主は余計な費用負担を嫌がり、多少の故障や汚れであれば交換したくはないので、交換を渋るということはザラにあります。その一方で面倒は避けたいので、過去にその借主がいろいろとうるさいことを言ってきたことがあったり、『顧問弁護士と相談する』『消費生活センターに通報する』と言われたりすると、迅速に対応しようとすることはあります。ですので『気が弱くて主張すべきことを主張できない』タイプの人だと損をしてしまうということは、実際問題としてあるでしょう」
(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)