福岡在住の男性会社員(50歳)が5年前に大阪市内の中古賃貸マンション1棟(築30年以上)を購入したところ、大変なトラブルに巻き込まれたという。RKB毎日放送が6月報じた。
報道によれば、この男性の年収は約1000万円で、マンション価格は2億4000万円。福岡の不動産会社はマンションを一括借り上げして、月額およそ137万5000円の家賃保証をする「サブリース契約」を提示した。男性は、月々100万円のローンを返済しても収支はプラスになると計算したという。ところが、2年も経たないうちに家賃保証のサブリース契約を不動産会社から一方的に解除された。毎月137万5000円だったマンションの家賃収入はほぼ半減の70万円になり、収支は月30万円の赤字に転落した。
男性は自分が購入した大阪の5階建てマンションを見に行ったところ、49部屋すべてが洋室6帖のワンルームタイプで、約4割の20部屋しか入居者がいなかった。外壁はきれいに塗り直されていたものの、内部はボロボロでエレベーターは壊れかけていた。空室をのぞくと天井は崩れ落ちてマンションの鉄骨がむき出しになっていた。
このマンションでは、男性が所有者となった5年間だけで11の部屋から死後しばらく経った遺体が見つかったという。さらに3年前には、住人同士による殺人未遂事件も起きていたとか。男性が自分で買ったマンションを見たのは、実はこのときが初めてで、現地の下見をせずに購入していた。不動産会社からは「皆さん現地を見ずに契約した人が多いです」と説明されていたという。
遺体がたくさん見つかる物件はレアケース
購入後に遺体がたくさん見つかる、事故物件とも思えるようなマンションなど、よくあることなのだろうか。姫屋不動産コンサルティング社長の姫野秀喜氏はこう話す。
「一人二人であればわかりますが、遺体がたくさん見つかるような物件というのは、ほとんど聞いたことがありません。『死後しばらく経った遺体』とあるので、高齢者が孤独死した後、腐乱していた可能性もあります。現在では単なる孤独死であれば、事故物件とは呼ばないかもしれませんね」
2021年10月、国土交通省は「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定し、初めて事故物件の判断基準を示した。それによれば、病気や老衰による自然死、階段での転落や入浴中の溺死など不慮の死は原則、不動産業者が買い主や借り主に「告げなくてもよい」とされている。
記事には「住人同士による殺人未遂事件」とあるが、これも穏やかな話ではない。
「仮に、暴力団のような反社会的勢力が絡んでいる事件だったら、そういう住人がいるという事実を重要事項説明時に聞いているはずです。また、過去にそういった事件があったのであれば同様に説明を受けているでしょう。ただ、購入後に起きた事件に関してまでは、さすがに業者の責任とはいえません」(姫野氏)
顧客の不利益が予見できても販売する
この男性、現地を下見せずに2億4000万円もの買い物をしていたようだが、ちょっと信じがたい消費行動だ。
「そういう残念な人が実はたくさんいます。私は、現地の下見は絶対してください、見に行けないような物件は買ってはいけないと顧客に言っています」(姫野氏)
姫野氏の説明を聞くと、販売した不動産会社の説明も一概にデタラメともいえないが、後々トラブルになる物件だけに、かなり不親切な説明しかしない会社であることに間違いない。事実、RKB毎日放送がこの不動産会社に取材したとき、不動産会社社長は「買われた方については、悲惨な状況になるというふうに思っていました」と証言している。
購入者が将来的に悲惨な状況に陥るとわかっていながら、平然と物件を販売するような不動産会社などあるのだろうか。
「普通にあります。もし顧客が悲惨な状況になるとわかって販売をやめたら、利回りの低い投資用不動産の大部分は売れません。ただ、低利回りの物件にまったく需要がないのかといえば、そうでもないです。このトラブルのように資産を持っていない人がゼロベースで借金して買うと、悲惨な状況になってしまいますが、例えば、すでにいくつものアパートを持っているような地主さんが、相続税対策などで低利回りだが好立地な物件をあえて買うのであれば問題ありません」(姫野氏)
このトラブルの購入者は相場の2倍の価格で買わされたと言っている。それほどの高値で買わされてしまうケースはよくあることなのだろうか。姫野氏は「よくあること」と話す。
「とくに、ワンルームなどを、よく考えもせず、現地も見ずに買うような人は、相場の1.5倍や2倍で買わされている可能性があります。ただ、この報道で相場という言葉をどういう意味で使っているのかは、よくわかりません。周辺物件との比較なのか、査定した不動産業者が勝手に言っていることなのか。そもそも不動産は相対取引なので、相場というものがあるようで実はないんです」(姫野氏)
犯罪行為であるエビデンス改ざんも
販売した不動産会社は、RKBの取材に対して「スルガ銀行から無理やり押し付けられて、販売させられた」と証言している。不動産会社が銀行から物件を押し付けられて販売させられるとは、どういうことなのか。
「この『押し付けられた』という表現はあいまいで、いまいち何を言っているのかわかりません。まず、銀行は不動産業者ではないので、業として物件を売り買いしたり仲介したりできません。ゆえに『押し付ける』という言葉で表現されている意味合いで考えられるのは3つ。
(1)スルガ銀行が抵当を付けていた物件を差し押さえ、それを売ってくれと押し付けた
(2)スルガ銀行と付き合いのある他業者の仲介物件を売れと押し付けた
(3)スルガ銀行と付き合いのある地主や投資家の物件を『仲介するように』と押し付けてきた。
この3つのうちどれかだと考えられます」(姫野氏)
一般的に、ほとんどの銀行担当者は「押し付け」などはしないと姫野氏は語る。ただ、この不動産業者は、特別な資産がない男性にローンを組ませるため、書類を改ざんしていた。男性の預金通帳には当時49万6645円(平成29年1月13日)の残高しかなかったが、銀行が保管していた通帳のコピーでは、残高が3349万6645円に改ざんされていた。不動産会社社長は取材に対して、「ローンを通すために頭金があるように作成、エビデンスの偽造。物件の評価が出なかった場合はレントロール、家賃の改ざんですね」と答えている。
これはかなり悪質な犯罪行為だ。そして、この不動産会社は、スルガ銀行からの「売れ売れプレッシャーがすごく、断ると提携を切られて融資がなくなる」と話す。姫野氏は「たぶん、提携ローンができるぐらいスルガ銀行と取引していたのではないか」と推測する。提携ローンとは、販売会社と金融機関が提携して顧客に提供するローンのことだ。例えば、自動車なら販売ディーラーが銀行と提携し、専用の自動車ローンを作り、「〇〇(自動車メーカー名)限定 ▲▲銀行マイカーローン」として双方の店頭やHPに広告するケースがそうだ。
現在主流になっているのは不動産の提携ローンで、提携ローンといえば不動産提携ローンを指すのが一般的だ。この場合は、ハウスメーカーや不動産業者などの販売会社と銀行が提携する形になる。審査の手続きが通常のローンよりも簡単で審査期間が短く、手続きを代行してくれるなどの利便性の良さがあるといわれる。要するに、この福岡の不動産会社とスルガ銀行はズブズブの関係だったのではないか。
利回り8%以下の投資用物件は買うな
超低金利時代が長く続き、将来を見据えて不動産投資をする一般の会社員も今どきは珍しくない。では、不動産投資で失敗しないようにするには、どこに注意すればよいのか。姫野氏は「表面利回り8%未満は検討する必要がない」とアドバイスをする。
下の表は、年収1000万円のサラリーマンが金利3%で新築5000万円のアパートをフルローンで購入したときの年間手取り額を、姫野氏が一覧化したものだ。
利回り8%未満を検討対象から外す最大の理由は、「キャッシュフロー(C/F)が少なすぎるから」(姫野氏)とのことだ。C/Fとは、税引き後の手取りを意味する。すなわち、家賃収入から銀行への元金返済の他に金利返済、管理費や保険料、固定資産税、所得税、住民税などすべての費用を差し引いて、純粋に手元に残る金額のことである。例えば、表面利回り5.0%では、初年度から手取りはマイナスになってしまう。これは投資でも何でもない。
「なぜ、8%で区切るのかといえば、5000万円もの借金を背負うリスクに対して十分なリターンはどこかと考えた結果です。利回り8%でも26年目にはC/Fがマイナスに転落するため、実際には8%でも不十分かもしれない。しかし、広く物件を見るという意味で8%以上を検討対象としています」(姫野氏)
なお、この表はすべて土地付きの投資物件を前提に計算しているとのことなので、参考にしてほしい。
(文=横山渉/ジャーナリスト、協力=姫野秀喜/姫屋不動産コンサルティング社長)