ビジネスジャーナル > マネーニュース > 新型コロナ、休業補償してくれる保険
NEW
鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

新型コロナ、休業での所得損失を補償してくれる保険は?国の特別貸付制度、業種を限定

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
新型コロナ、休業での所得損失を補償してくれる保険は?国の特別貸付制度、業種を限定の画像1
「gettyimages」より

 新型コロナウイルスの感染拡大が終息の兆しが見えないなか、学校・観光・飲食業・芸能・一般企業などさまざまな方面に影響を及ぼしています。経済的損失は計り知れないほどですが、新型コロナウイルスに罹患していないフリーランスや日雇い契約で仕事をしている人にとっては死活問題になりつつあります。こうした人たちへの補償はどうなっているのでしょうか。

 厚生労働省によれば、3月11日12時時点で新型コロナの国内患者数は504例、無症状病原体保有者は64例、確認されています。毎日のように患者数が増えるなか、一筋の光明ともいえる発表がありました。

 3月9日、横浜市立大学学術院医学群微生物学の梁明秀教授を中心とする研究グループが、新型コロナウイルス患者血清中に含まれる抗ウイルス抗体の検出に成功したのです。一日も早い診断法の確立や試薬キットの開発、実用化が望まれますが、抜本的な治療法はいまだ確立されていません。

 新型コロナの被害が拡大するにつれ、教育関連施設の閉鎖、病院・介護施設の面会禁止、各種イベント・公演・セミナーの中止などが相次ぎました。3月決算を迎える企業の業績への影響も懸念されています。在宅勤務や時差出勤で対応する企業も少なくありませんが、出張および会議中止はもとより役員クラスには外食禁止を命じた企業もあるほどです。

 観光関連や飲食業の打撃は計り知れず、「銀座から人が消えた」と言われているぐらい、いつもは人で溢れている銀座の通りも店もどこもガラガラなのが象徴的で、今後、外食産業や観光関連の二次被害も次第に明らかになっていくことでしょう。

 新型コロナウイルスの影響により東京株式市場の日経平均株価も急落し、13日には1万7081.14円(午前中の終値)となり、約30年ぶりの下げ幅となっています。

 こうしたことを受け、安倍晋三首相は3月7日、新型コロナウイルス感染症対策の第一弾として売上が急減した個人事業主を含む中小・小規模事業者を対象に、特別貸付制度を創設しました。日本政策金融公庫等において5000億円の実質無利子・無担保の融資を行うことを発表しました。しかしながら、個人事業主を含むとあっても、公庫の貸付条件を見ると、貸付先の業種が限定されていることがわかります。

新型コロナ、休業での所得損失を補償してくれる保険は?国の特別貸付制度、業種を限定の画像2

 さらに、政府は一定の要件を満たしたフリーランスや自営業の方を対象に、一律一日4100円の休業補償を検討しているとの報道もあります。まだ対象条件も明らかになっていませんが、罹患していないフリーランスで仕事をされている方々の中には慣習的に契約書をきちんと交わしていない方もいます。あまりにも少ない休業補償の提示に「いくら休業補償をされるにせよ、このまま新型コロナの被害が初夏まで長期化すれば、もはや死活問題。衛生災害じゃないか」との怒りの声が多く上がっています。

衛生被害を対象とする生命保険の発売は困難

 そんな方たちから筆者のところによくあるお問い合わせが「対応できる民間の保険はないものか?」ということです。もちろん、一般的に販売されている「医療保険」や、一定条件の下、病気やケガで働けなくなった時の経済的損失をサポートする最近流行の「就業不能保険」は、新型コロナウイルスによる入院などを保障していますが、あくまでも主語は“人”です。残念ながら、生命保険分野で新型コロナウイルスを理由に休業を余儀なくされた経済的損失を直接カバーする生命保険は発売されていません。

 筆者の私見ですが、先に述べたように生命保険は“人”保険なので、今後も新型コロナウイルスのような衛生被害を対象とする生命保険の発売は困難だと考えます。

 では、”モノ“を対象とする損害保険では発売されているのでしょうか? 確かに、阪神淡路大震災や東日本大震災で各契約者に保険金が支払われたことは事実です。今回も災害と捉えるなら、何かしら支払われても当然のように思えますよね。ただし、先の震災で支払い対象になったのは、火災保険の住宅家財であって、人の経済的損失ではありません。火災保険の対象にはなり得ないのです。

 ちなみに、本来は大規模自然災害も免責事項(保険各社は保険金の支払い責任を免れる)になるはずでした。免責事項の対象は各社ともに「地震・噴火・津波などの天災、戦争などの変乱」で約款(やっかん:金融庁の許可を得て、保険会社が作成している保険の契約条件や内容を記したもの)に明記しています。しかしながら、被害者救済を目的として各社が特例を設けて実施したことにほかなりません。

 実は損保では経済的損失をカバーする保険はあります。企業用では企業が偶然の事故で被った営業損失を補てんする「企業費用・利益損害保険」、個人なら「所得補償保険」が該当します。「所得補償保険」においては、生命保険の「就業不能保険」と同じく、実際に新型コロナウイルスに罹患して入院した場合などは補償対象となります。とはいえ、今回のような衛生災害は「企業費用・利益総合保険」において現時点では支払い対象ではないようです。

パンデミックに備える保険が極めて困難な理由

 では、なぜ衛生災害時の経済的損失を補償する商品が開発されていないのでしょうか?

 損保の商品開発に携わっている複数の関係者に聞いてみたところ、こう理由を明かします。

「一番重要となるのが、事故発生時に保険金の支払い請求がどれだけ集中するか(=保険会社の支払い能力を超えないか)という集積リスクの問題が大きいです」。

 ちなみに東日本大震災で保険金は支払われましたが、翌年以降、再保険会社(引き受けた保険契約上の責任の一部または全部を引き受けてくれる他の保険会社。再保険は保険の保険とよばれる)に掛ける保険料が値上げしたことにより、火災保険料が上がりました。

 すでにWHO(世界保健機関)は新型コロナの感染拡大をパンデミックだと宣言しましたが、保険会社は健全な業務を運営する使命上、自社独自でパンデミックの発生により、実際の罹患の有無にかかわらず経済的損失に手厚く備える保険を開発することは極めて困難となります。

 それ以前に、パンデミックをサポートする商品を開発するなら、検査入院で陰性の場合の取り扱いや特定感染症の疾病や範囲など、一つひとつ検討していく課題が山積しています。発売までには長い時間を必要とすると考えます。

 今後も新型コロナに匹敵するようなパンデミックを引き起こすウイルスや細菌も出現する可能性はゼロではないと思っています。こうしたニューリスクに対して、なんとか商品開発を検討していくのも保険会社の使命ではないかと思うものの、現実的には多くの課題があるのです。

自然災害時への金銭的備え

 新型コロナ被害が拡大、長期化するにつれ、人々のイライラや不安も募ります。フリーや自営業者のなかには、先が見えないことからアルバイトを始めた方もいらっしゃいます。そんな方のなかには、「災害は人ごとと思っていたけど、こんな災害があるとは予想もしなかった。初めて災害に遭った人の苦労や不安が理解できた」という人もいました。

「備えあれば憂いなし」と昔の人はよく言ったものです。もはや日本は災害大国だと認識して、感染防止対策を習慣化すると同時に、自然災害・衛生災害の備蓄のみならず金銭的備えをする必要性を求められているのかもしれません。

 今回の新型コロナで犠牲になられた方、現在、闘っていらっしゃる方に心からお見舞いを申し上げるとともに、フリーや自営業への各行政などの支援も期待しつつ、一日も早い治療薬の開発を心から願ってやみません。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

新型コロナ、休業での所得損失を補償してくれる保険は?国の特別貸付制度、業種を限定のページです。ビジネスジャーナルは、マネー、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!