アフラックに異例の金融庁検査…不透明な運用、過度の営業姿勢
(右)「週刊ダイヤモンド」(同)
●加入者低迷で生保が打った一手とは!?
まずは、毎月のように新商品が出ている医療保険とがん保険について。
これまでは保障期間を終身で設定することが多かった医療保険だが、最近は保障額の大きな医療保険に加入せず、保障額の小さな医療保険と貯蓄の両方で、入院費支払いのリスクに備える人が増えている。ある一定の貯蓄額を確保できるようになったら、掛け捨ての医療保険をやめてしまう人もいるという。
そういった人向けの商品が「10年更新型」だ。NKSJひまわり生命の「健康のお守り」が割安だという。また、短期入院した際に給付金を多めにもらいたい場合には、マニュライフ生命の「こだわり医療保険」だ。この保険には入院すると入院給付金日額の5倍に相当する額の給付金「入院見舞い給付金」が支払われる特約がある。この商品は10月に発売されたばかりで、年齢にもよるが後発だけあって保険料は他社比で見ると割安になっている。
がん保険では、これまでは「がんになったことがある人は、新たにがん保険に加入できない」というのが一般的なイメージだったが、最近ではがんになった人が加入できるがん保険もある。セコム損害保険からは乳がん経験者限定ながらも「メディコムワン」という商品があり、アメリカンホーム保険の「がんになったことがある方も入りやすいみんなのほすピタる」は、前回のがん治療から2年経過していれば加入を検討できる緩和型のがん保険だ。
こうした保険の種類を見てみると、最近の1つ目のトレンドは「緩和型」だ。病気やケガによる入院・手術に備える医療保障分野で、持病や既往症がある人でも入れる、新タイプの医療保険が登場しているのだ。それは引受基準緩和型医療保険で、健康状態に関する質問(告知項目)は3~5項目と通常の医療保険の8~10項目と比べると少ない。入院・手術の予定がなければ、投薬中や通院中の人でも加入が可能だ。中堅生保の朝日生命が10月から発売した「かなえる医療保険」は、発売1日目に500件の申し込みがあり、営業17日目で7000件を超えた。来年3月までの販売目標は6500件でわずか2週間強で下記の販売目標を達成してしまうほどの大ヒットになった。申込者は50~70歳代が多数を占め、60歳代がもっとも多い。アクサ生命が4月から発売した「OKメディカル」も販売好調だ。他社比較で安いこともあってか、発売半年で2万件を超えて、想定の3倍以上の契約を獲得しているという。
ただし、引受基準緩和型医療保険は保障内容や保険料が通常の医療保険とは異なるので注意が必要だ。入院給付や手術給付については加入から1年間は保障が半額になり、満額保障されるのは2年目以降となる。さらに、保険料は保険会社によって異なるが、同水準の通常の医療保険と比較して1.2~1.7倍程度高くなる。通常の医療保険に申し込めば加入できるのに、加入しやすいという理由だけで割高の緩和型医療保険を選ぶことのないように注意したい。
こうした緩和型医療保険が拡大するのは、健康な人だけを対象にしていたら市場が拡大できないということが背景にありそうだ。
また、この背景があてはまりそうなのが、もう1つのトレンドである「付帯サービス」だ。東京海上日動あんしん生命の「介護お悩み訪問相談サービス」はケアマネージャーによる訪問相談を、アクサ生命の「糖尿病サポートサービス」は「優秀糖尿病臨床医」の紹介を、アフラックは「がん患者専門カウンセラー」による訪問面談サービスを、メットライフアリコや日本生命はがん、心臓疾患、脳卒中など多くの疾病で優秀な専門医からセカンドオピニオンを受けられるサービスを登場させている……などといった具合だ。
こうしたサービスは商品の被保険者へのサービスを高めることで、これまでの商品をより魅力的にしようという狙いがありそうだ。このあたりもこれまでのやり方では市場の拡大が期待できないという現実が背景にありそうだ。特集では15社が競い合う「提案力誌上コンぺ」もあるのでより具体的な特約に関心がある方は目を通しておきたい。
●アフラックの内部にするどく迫った好特集
「週刊ダイヤモンド 12/8号」の特集は『老後破綻を避ける 40代からの「お金」の強化書』だ。誰もがいずれは迎える老後。老後の暮らしをイメージして足りないお金を今から貯めるしかない。老後破綻を避けるためのお金の常識・非常識を一挙公開という特集だ。『Part1』では「安心の老後に必要な資金と貯蓄戦略」を、『Part2』では『侮れない老後の出費と賢い使い方』を、『Part3』では『定年後に入る年金・給料と資産運用』を特集している。
老後には3500~4000万円程度の蓄えが必要だとして、そのための節約術を紹介。たとえば医療保険よりも300万円の貯蓄があれば大丈夫……といった節約術を紹介しているのだが、バラバラのテーマをパッチワーク的につなぎあわせた「お金」をテーマにしたワイド特集のようなものになっていて、読み応えがない。「お金」に関する特集で読み応えのなさは「週刊ダイヤモンド 5/26号」の特集『老後難民にならない資産運用の鉄則』に並ぶほどだ。
しかも半年前のその特集では、「老後は3000万円あればなんとかなる。そのための資産運用を考えよう」という記事だったのに、今回は「老後には3500~4000万円程度の蓄えが必要だ」と1000万円も増額されてしまった。このデフレ時代になぜか増額してしまったのだ。本気で、老後資金を貯めようとこの2冊を併読した読者がいたら戸惑うところだろう。
その時々に取材に行った専門家のおおまかな概算に左右されて、記事作りをしているためにこういったちぐはぐな数字が出てしまう。もう少し読者目線の記事作りをお願いしたい……とツッコミをいれたところで、第2特集を見ると、「迷走するアフラック 契約者数1500万人の巨船」という骨太取材の特集が掲載されているではないか。
●収益第一主義保険・アフラックの拝金マネジメント術
白いアヒル、招き猫ダックに加え、有名人を起用したCMでおなじみの外資系生命保険会社アフラック。日本で初めてがん保険を発売し、業界ナンバーワンの保有契約件数2100万件を誇っている。ところが、今、アフラックが迷走を始めている。今年行なわれた金融庁検査では、異例の5カ月にわたる検査期間になり、保険金の支払い体制や経営ガバナンスについて指摘を受ける事態になった。しかも、販売部隊である代理店からは現経営陣との対話不足からか不満の声が噴出している。アフラックで何が起きているのか。内部に迫った取材特集だ。
そもそもアフラックに関しては、すでに、「週刊ダイヤモンド 7/28号」の冒頭のニュース記事「ニュース&アナリシス」の『アフラックの“欺瞞”にメス 金融庁が前代未聞の長期検査』という記事で保険金支払い体制のずさんさ、過度な営業姿勢、不透明な保険料の運用など懸念材料が山積みの社内事情や、3年周期で期間も2~3カ月程度が通例の金融庁検査だが、アフラックに関しては前回の検査から2年半しか経っていないのに検査が行なわれるという異例な事態ぶりを紹介する記事が掲載されていた。
アフラックの経営姿勢を「保険金支払いの体制整備にカネをかけるより、新契約の獲得に重きを置く“収益至上主義”」とダイヤモンド誌は気持ちよいくらいに斬って捨てたほどだ。
アフラックといえばメディアにとってはCM・広告をもらえる大スポンサー。大スポンサーはえてしてタブーな存在になりがちで、7月のニュース記事掲載の時点で、これからはダイヤモンド誌にとっても筆が甘くなるのではと心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。
今回の読み応えは、『Part1 経営の迷走 現経営陣のガバナンス不足 社内に蔓延する閉塞感』だ。「知られざるアフラックのマネジメント体制」というページでアフラック日本支店のチャールズ・レイク会長、外池徹社長以下、執行部の組織図が役員の名前入りで一挙掲載されているのだ。企業モノを取材するときに壁になるのが、閉鎖された会社の人事情報だ、人事情報が内部関係者しか持つことができない。つまり、この記事が掲載される時点で、ダイヤモンド編集部は、確固たる告発者とのパイプがあることがわかる。ここまでの気合の入りようは「週刊ダイヤモンド 2/4号」の前ストリンガーCEO体制を批判的に検証した特集『さよなら! 伝説のソニー なぜアップルになれなかったのか』以来だろう。
組織図を見ると、まずは、チャールズ・レイク会長は8月上旬に検査情報が漏れたとして金融庁に抗議するような豪腕だ。それもそのはず、レイク会長は米国・通商代表部(USTR)の日本部長を経て、1999年にアフラックに入社。03年に社長、08年には会長となった人物だ。米国・通商代表部(USTR)の日本部長時代には1993年の日米包括協議において、米国系保険会社を日本市場で優遇されるように協議を推し進めた人物だ。
社長の外池氏は、みずほコーポレート銀行出身で、主要ポストをみずほ出身者で固め始めているという。営業と保険金の支払い部門を除く大半でみずほ化が進んでいるのだ。
追い出された格好になっているのは、創業メンバーで元社長の大竹美喜最高顧問と松井秀文氏だ。販売部隊である全国の代理店を訪ね、親交を深めてきた二人のカリスマ性は語り草になっているほどだ。現在、代理店が活躍すべき営業現場では本部との間にすきま風が吹きはじめ(『Part2 営業現場の迷走』)、利益至上主義が目立ち始め、保険商品も改悪が目立つという(『Part3 保険商品の迷走』)。
8月末、金融庁は最新の保険会社に対する監督方針に「外国保険会社は拠点の規模や業務内容等によっては、視点の現地法人化を行なうことが適当」という文言を盛り込み、アフラックを震撼させた。
というのも、実はアフラックは米国が本社で、日本のアフラックは日本支店に過ぎないからだ。つまりほかの大手外資系保険会社が経営の透明性を高めるために現地法人化している中で、アフラックは「合理的な経営」などを理由に現地法人化していないのだ。
実はアフラックの経営姿勢を決めているのは、米国本社で、日本支店には意思決定の権限がない。にもかかわらず、アフラックの売上の7割以上が日本によるもので、日本支店の税引き後利益の約70%、多い年は100%を米国本社に送金しているという。つまり、アフラックは、日本でぼろ儲けして米国に利益を還流させているシステムということになる。保険会社は契約者の資産を何十年に渡って預かる存在。だからこそ、こういった還流システムに金融庁も懐疑的な見方を示したのではないだろうか。
この還流システムには既視感がある……。先週の「週刊東洋経済 12/1号」の特集は『新流通モンスター アマゾン』でも、アマゾンの本社機能は米・シアトルのアマゾン・ドット・コム・インターナショナル・セールスであり、アマゾンは日本では法人税は払う必要がないという事実が紹介されていたが、このカラクリにそっくりなのだ。日本で儲けたにもかかわらず、日本には利益をわずかしか還元せずに、アメリカに還流させる。このあたりにも日本でお金が回っていかない不景気の理由の一端がありそうだ。TPPに加入せずとも、すでに日本のお金で米国が潤うようになっているのではないか。
最後に、どうみても取材の充実ぶりからいっても、ダイヤモンド誌の今号は第2特集のアフラック特集が第1特集ではなかったか。第1特集は「お金」のワイド特集になってしまうところに、「週刊ダイヤモンド」編集部の迷走が見えるようだ。
(文=松井克明/CFP)