そんな証券会社の儲けのテクニックについて、某大手証券会社の元女性社員Y氏(仮名、30代前半)から話を聞いた。
Y氏の証券会社時代の仕事は、電話、対面で顧客からの株などの売り買いに対応する窓口業務。多くの証券会社では、顧客に多く売り買いをさせ、そこで儲ける手数料により、個人の歩合給が左右される。そのため、Y氏の会社でも、個人がどれだけ手数料を稼いだかという営業成績が、社内の壁にグラフとして貼り出されていたという。
「私が勤務していた当時は、個人の名前と成績グラフが貼ってありました。日々、どれだけの売り買いを顧客にさせ、手数料を取ることができたのかをわかるようにするためです。社員間の競争意識が強かったので、とにかく顧客に売り買いをさせることに全力を注いでいました」(Y氏)
個人はまず株式投資を始める際、証券会社で口座を開設することになる。そのとき、窓口業務を担当した社員が、その顧客の担当者となることが多い。窓口や電話などで株式売買をする場合には、顧客の担当者が応対する。その際、売り買いともに取引金額の約1割が、手数料として証券会社に支払われることになる(ネット証券を利用した売買の場合は、手数料はこれより低い)。
「手数料は取引金額に応じて異なります。ですので、私たちの間では億以上の資産を株式投資されている顧客は『大切な顧客』ですが、資産数千万円程度の顧客は『たんなる顧客』、それ以下の数百万、数十万の顧客は『クズ』『ゴミ』と呼んでいました。顧客から電話を頂いても、億単位の方以外のあしらいは適当でした。少額の運用に頭を使うのは時間の無駄ですし、売り買いしていただいても数十万、数百万円程度の取引額では手数料も微々たるものです。そんな手数料のために、事務処理をするのは面倒ですから」(Y氏)
●“クズ株”も押し付け
各種投資関連雑誌を見ると、ネットでの株取引を勧めている記事が多いが、Y氏によれば、大口の投資家は昔から株式投資をしているため高齢者が多く、ネットは信用できない、窓口や電話での取引こそが一番だと考えている人も少なくないという。こうした顧客は、証券会社としても絶対に大切にしなくてはいけないため、扱いは丁寧に、信憑性の高い銘柄を勧め、資産を増やすことを最優先に考えるという。
「逆に、証券会社の上部から“とにかく売れ”と言われた長期的な値上がりが見込めない株=“クズ株”は、投資金額が数百万、数十万レベルの顧客に押し付け販売します。多少でも上がらないとマズイので、売りつけ後に社内で株価を操作し数日だけ上げ、あとは下落していきました。顧客の資産よりも、自分の成績を上げることが大切なので、より多くの手数料を稼ぐために、顧客と投資金額について相談しながら、目先だけ上がるような銘柄を勧めていました。上がった時に株を売らせるのではなく、少し下がりだした時に、損切りをさせて、また目先で上がるような銘柄を勧めます。こうすることで、顧客は少し儲けている、儲かっているという気持ちになるようです。実際に、この方法で何人かの顧客は私に感謝してくださいました」(Y氏)
しかし、このやり方では、購入銘柄は高値になり平均買いコストは上回るものの、大きく儲けを出したわけではないので、手数料と差引きすると、資産全体では少しずつ目減りしていくのだという。また、株の世界では「株の儲けは我慢料」という言葉もあり、銘柄によっては、売り買いは激しくしないほうが利を得るとされている銘柄も少なくない。
「どんな銘柄でも、基本的にどんどん売り買いさせていました。実際は、このまま置いておくほうが儲かりそうな銘柄でも、手数料の儲けのために移動(現在保有する株を売って、他の株を買うこと)をお勧めしたことが多いと思います。株価は政府要人の発言や出来高数などによって変化します。さらに、ひとつひとつの銘柄にはクセのようなものがあり、毎日見ているとクセがだいたい読めるようになります。そこで、銘柄移動を繰り返し、何度も繰り返させることで手数料を頂いていました。ですから、顧客が増えているはずだと思っていた総資産は、アッという間になくなっていきました」(Y氏)
また、顧客の売り買いが少ない時期には、女性であるY氏は、男性顧客の会社や自宅に出掛け、売買を勧めることも少なくなかったという。まさに、「押し売り/押し買い営業」である。