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パナソニック、10兆円企業へのカギ握る車載事業の誤算~テスラ大型供給と巨額投資の成算

文=永井隆/経済ジャーナリスト
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パナソニック、10兆円企業へのカギ握る車載事業の誤算~テスラ大型供給と巨額投資の成算の画像1パナソニック本社(「Wikipedia」より/Pokarin)
 パナソニックは創業100周年に当たる2019年3月期(18年度)に、連結売上高10兆円を目指す計画を発表した。果たして実現できるのか。それ以前に、10兆円企業への挑戦は今回で3度目だが、何度も“大風呂敷を広げる”ということに不安はないのか。

 プラズマテレビへの大型投資の失敗などから2期連続で7500億円を超える巨額赤字に苦しんだパナソニックだが、円安やリストラ効果から14年3月期(13年度)には売上高7400億円、営業利益2700億円を見込む。家電製品を中心とするビジネスモデルから、BtoB(企業向けビジネス)への注力をすでに打ち出していたが、10兆円は「なんとしても達成したい」(津賀一宏社長)と3月の会見で意欲を示していた。

 10兆円の内訳は、家電(13年度見通しは1.8兆円)、住宅(同1.3兆円)、車載(同1.1兆円)がそれぞれ売上高2兆円ずつ、BtoBソリューション2.5兆円(同1.8兆円)、デバイス1.5兆円(同1.4兆円)など。今回はこの中で、「車載の2兆円は見えてきた。もう少しで届く」(津賀社長)と自信を見せる車載を取り上げてみる。

 車載の柱になっているのは、電気自動車(EV)ベンチャーの米テスラモーターズに供給しているリチウムイオン電池だ。12年夏に発売されたテスラの高級EVセダン「モデルS」は、富裕層に支持されて販売好調。パナソニックはテスラに14~17年に約20億セルのリチウムイオン電池を供給する契約を結んでいる。ちなみに「モデルS」は日本でも販売が始まっており、価格は823万~1081万8000円と高額。ただし、この「モデルS」は昨秋、北米で3件の火災事故を相次ぎ起こしており、安全性を懸念する指摘も数多くなされている。火元はリチウムイオン電池だが、かつてノートパソコンに搭載されたリチウムイオン電池が自然発火したケースとは異なり、自動車事故の衝撃により発火した。3件とも、運転手も同乗者も素早く脱出したため、死傷者は出なかった。

 累計販売台数が10万台を超えた日産自動車「リーフ」、三菱自動車工業「i-MiEV」など、ほかのEVでは火災事故は発生していないが、なぜ「モデルS」だけが炎上事故を起こしてしまったのか。

 リチウムイオン電池内部には、可燃性の電解液が注入されており、「電解液は、揮発性が高いガソリンではなく灯油に近い性質。爆発はしないが、燃えやすい」(電池メーカー技術者)という。「モデルS」に搭載されているのは、パナソニック製の「18650」(直径18mm、高さ65mmの円筒形)と呼ばれるPCなどにも使われる汎用電池。EV用に多少カスタマイズされているが、「リーフ」や「i-MiEV」が専用電池を搭載しているのとは異なる。

 テスラは「モデルS」に搭載される電池の数も、直列・並列といった組み方も公表していないが、1台当たり6000~7000個は載っているとみられている。これだけの数の電池を搭載する理由は、フル充電での航続距離を500 kmとするめだ。ちなみにリーフのそれは228kmとなっている。大量の電池を収納するため、「モデルS」の電池パックは床下に広い範囲で設置されているのが特徴。

「一般に車はボンネットなどがクラッシャブルゾーンとなり、衝突時に潰れることでエネルギーを吸収し、人や燃料タンクを守る。電池を大量に積む『モデルS』はバッテリーパックが床下に広く敷き詰められているため、クラッシャブルゾーンを十分に確保できていないのではないか。しかも電池の数が多いため、火がついた時の火災の規模も、その分大きくなる。電池には問題はないが、大量の電池を床下に広く詰め込む車体設計そのものに問題がある」(自動車メーカー幹部)と指摘する。また、「なぜ、テスラの火災事故が大きく取り上げられなかったのか、不思議でならない」(別の自動車メーカー首脳)という声も聞かれるが、相次いだ事故による販売への影響は小さく、米市場に限れば、期間によっては「モデルS」は「リーフ」の販売台数を上回る月もある。

リスクも大きい投資

 こうしたなか、17年稼働を目指してテスラは、米国内に電池の新工場を建設すると発表。投資額は40~50億ドルであり、うち20億ドル程度をパナソニックが担うとみられるが、「投資リスクが大きいのは間違いない」(津賀社長)という。

 トヨタやパナソニックも出資するテスラは、オバマ米国大統領が実施したグリーンエネルギー政策により成長を遂げ、生き残っている唯一のベンチャー企業でもある。「『モデルS』よりボリュームゾーンの車種を生産するため、(電池)工場をつくりたいのだと思う」と前出の会見で津賀社長は話すが、テスラは日産やゼネラルモーターズ(GM)などのライバルを引き離すために今回、大型投資に乗り出すとみられている。またテスラは、オバマ政権が続き、さまざまな支援を受けやすい間に、設備投資だけではなく安全性の高い車両設計を行う必要にも迫られている。

尼崎工場の蹉跌

 テスラ向けリチウムイオン電池は、実は旧松下電池工業が独自技術で開発した。正極材に一般に使われるコバルトやマンガンではなく、ニッケルを使用して高容量を実現させたのが特徴だ。ただし、ニッケルは水分に弱い上に合成が難しいことで知られ、開発プロジェクトは一度解散した。それでも、会社は技術者を2人だけ残し、地道な研究を重ね、05年にPC用として商品化に成功する。大胆なリストラを繰り返すいまのパナソニックでは考えられないが、「志を忘れない」というパナソニック創業者・松下幸之助氏の言葉に従いつくり上げたオンリーワンの技術でもある。テスラ以外にも、マツダも旧松下電池工業製「18650」を組んだEVやレンジエクステンダーを開発している。

 パナソニックの車載用リチウムイオン電池事業は、本来は旧三洋電機の技術がメインのはずだった。旧三洋の技術をベースとする車載用電池を量産する目的で、パナソニックは巨費を投じて加西工場(兵庫県)を建設した。しかし、新型のリチウムイオン電池を搭載するトヨタ「プリウス」のプラグインハイブリッド車が思うように売れず、加西工場の稼働率は上がらない状態だ。何より、車載用電池技術の獲得を大きな目的に買収したはずの旧三洋の技術が、これまでほとんど生かされていないのは誤算だ。

 パナソニックは創業100周年を迎える18年度に10兆円企業を目指すわけだが、なぜこの年に10兆円なのか、根拠は明示されていない。意味の明確ではない目標を必達させようとすると数字の大風呂敷に振り回されるため、綻びが発生することは多い。過去に同社は尼崎のプラズマ工場への過剰投資から経営が傾いたのは記憶に新しいが、車載において同じ轍を踏むようなら、パナソニックの経営も再び“火の車”と化すだろう。
(文=永井隆/経済ジャーナリスト)

永井隆/ジャーナリスト

永井隆/ジャーナリスト

1958年群馬県桐生市生まれ。明治大学卒。東京タイムズ記者を経て、92年にフリージャーナリストとして独立。「サントリー対キリン」(日本経済新聞出版社)など著書多数。

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