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江川紹子の「事件ウオッチ」第4回

【PC遠隔操作】我々が完全に騙された片山被告の“巧妙なウソ”の手口と、事件解明のカギ

江川紹子/ジャーナリスト
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【PC遠隔操作】我々が完全に騙された片山被告の“巧妙なウソ”の手口と、事件解明のカギの画像1片山祐輔被告(左)の精神鑑定請求を検討していることを明かした佐藤博史弁護士(右)は、「責任を逃れることの鑑定でなく、どうしてこういうことをしてしまったのかを解明するための鑑定」としている。(写真は16日の記者会見時)

 パソコン遠隔操作事件で無罪を主張していた片山祐輔被告が、一転して全事件での犯行を認めた。河川敷に埋めたスマートフォンから、16日に“真犯人”を名乗るメールをタイマー送信したことで、墓穴を掘った。今後は事実を語るとしており、一連の事件の事実関係は、彼の被告人質問を行えば解明できることになる。しかし、分かりにくいのは、彼の心の中だ。

片山被告がついた、巧妙なウソ

 弁護人の説明によれば、片山被告は事件を起こす経緯について、「軽い気持ちでやってみたら、できちゃった」ということらしい。ここまでは分かった気になってみるとしても、逮捕後に実に巧妙なウソや演技を重ねて、弁護人や世間を欺き続けた心理は、私にはどうしても理解ができない。

 ウソをつくことに抵抗がないだけではない。今回の“真犯人メール”を私が最初に片山被告に見せた時、彼の顔はそれを読みながら紅潮していき、本当に驚いているように見えた。そのような態度を、彼はごく自然にできてしまうのだという。

 しかも彼のウソは、人の心理を巧みについた、実に手の込んだものだった。たとえば、警察の捜査でも明らかにならなかった、江の島の猫につけたピンクの首輪の入手方法。昨年1月3日に実際に猫につけたものと、同月4日付神奈川新聞の上に載せて写真を撮った偽装工作用のものの2本が使われていた。勾留中だった片山被告は、接見に来た弁護士に向かってつぶやいた。

「レシートを見れば、POSシステムで管理されているか分かりますよね」

 弁護士が確認すると、首輪がついていた台紙にはバーコードが印刷されていた。この首輪は百円ショップのチェーン店で売られていたもので、弁護団は店を経営する会社に、首輪を2つ購入した履歴を照会した。警察も、当然捜査をしていたはずで、それでも明らかにならなかったものが、弁護士の照会で出てくるはずがない。

 今回引き起こした騒動で再収監された後、弁護人に明かしたところによれば、実は、片山被告は首輪を万引きしたのだという。しかも、猫につけたものと偽装工作用に分けて、別の日に盗んでいた。なので、いくら調べても、同じ首輪を2本同時に購入した履歴は出てこない。片山被告は、もちろんそれを知っていた。かといって、あからさまに購入履歴の調査を依頼するのではなく、ヒントだけをつぶやく。弁護士は自発的に会社への照会を思いつき、彼に誘導されているとは気づかない。

 弁護団は、片山被告の無実を信じて、実に献身的な弁護活動を行っていた。主任弁護人は、片山被告の母親を元気づけようと、2人を事務所旅行に招待した。そういう人たちを欺くことに、彼はなんら心の痛みを感じていなかったようだ。あたかも、そのような痛みを感じる回路のどこか大事な部分が、すっぽり抜け落ちているように思える。自身の行為によって誤認逮捕され、虚偽の自白にまで追い込まれた人たちの苦しみに対しても、リアルに想像することができないでいるのだろう。

真相究明に必要な心の解明

 5月22日の公判で、片山被告は従来の無罪主張を取り下げ、新たに全面的に起訴事実を認めた後、弁護人の問いに答える形で、自分が欺いた人たちや巻き込まれて誤認逮捕された被害者に対しても謝罪した。しかし、頭では「悪い」と分かっていても、心でそれをどこまで感じているか、疑問だ。そもそも、そんなにすぐに反省できるようであれば、ここまでウソを重ねることはできなかっただろう。弁護団の献身を裏切っていることを、心苦しく思っていたに違いない。

 そもそも、片山被告が事実を認める気になったのは、「悪い」と思ったからではなく、“真犯人メール”を送ったスマートフォンが見つかり、自分の指紋やDNAが検出されて、逃れきれないと観念したからだ。彼が2005年、掲示板への殺害予告などで罪に問われた時も、最初は否認していたが、動かぬ証拠を突きつけられて、全面的に罪を認めた。

 片山被告自身、外から見える「白い自分」と、内側にある「黒い自分」がまったく別人格のように同居している自分の状態には気がついている、という。だからといって、格別それに苦しんできたわけでもないものの、そんな自分が立ち直れる自信もなさそうだ。

 保釈後、インタビューや記者会見などで彼を見ていて、違和感を覚えたのは感情表現の乏しさだった。保釈された時も、その喜びの表現は控えめだった。抑制的なのかなと思ったが、今になって考えると、むしろ感情自体が乏しいような気がする。本当の気持ちを述べようにも、何が自分の本当の気持ちなのかも、彼は分からない状況なのではないか。

 そういう彼の内面に光を当てていかないと、なぜ彼が事件を起こし、人を欺き、稚拙で愚かな“真犯人メール”の工作まで行うに至ったのか、その全体像は解明できない。彼は有罪判決を受けて服役することになるだろうが、いずれは社会に戻ってくる。心の問題が解決しないままでは、社会にうまく馴染めず、また問題を引き起こす可能性もある。多少の時間がかかったとしても、彼が今回のような愚かな行為をせず、無罪を主張し続けていたことを考えれば、有益なことに時間をかけるのは無駄ではない。発達障害も含めた心理、もしくは精神医学の専門家の助けを借りて、彼の心の状態を明らかにしていくことが必要だと思う。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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