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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」第20回

アマゾンの新スマホは、なぜ脅威なのか?一機能に秘められた「検索の王者」への野望

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「ファイアフォン」(通販サイト「amazon」より)
 数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。

 また新しいスマートフォン(スマホ)の発表か? そう思われた方も多いかもしれない。

 6月18日、アマゾン・ドットコムのジェフ・ベゾスCEOが、アマゾン初のスマホ「ファイアフォン」の発売を発表した。日本での発売は未定だが、アメリカでは7月25日から販売が開始されるという。AT&Tが独占販売し、価格はSIMフリー版が649ドル(約6万5000円)、2年契約の場合が199ドル。

 発表後のさまざまな反応を見ると、この商品は割高な高機能スマホであり、あまり売れないのではないか、という推測記事が散見されるが、戦略コンサルタントの視点で見ると、競合商品にとってファイアフォンの脅威はすさまじいように思える。

 この商品は、実に戦略的に考えられた、ある意図をもった商品なのだ。そしてその意図が成功した場合、世の中を劇的に変えてしまう大きな変化をもたらす。

 それを理解するカギは、ファイアフォンに搭載される新機能「ファイアフライ」である。これは画像ないしは音声を手がかりに、元の商品を検索する機能だが、わざわざ本体側面に専用ボタンがついている。このボタンを押してファイアフライを起動すると、カメラやマイクで周囲の映像や音を認識することができる。例えば目の前の本の表紙をファイアフライに認識させれば、通販サイト「アマゾン」上の同商品の売り場にジャンプする。

 本だけではない。アメリカにおけるアマゾンは、日本でいえば楽天のような同国最大のショッピングモールである。ファイアフライが認識した画像や音声に基づき、アマゾンで販売される約7000万点の商品の中から瞬時に検索され、販売ページが表示される。

 この情報が発表されると、リアル店舗で見つけた商品をネットで購入するショールーミングが増加するとか、アマゾンへのオフラインtoオンライン(ユーザをリアル店舗からネットへ誘導すること)が強化されるといった反応がすぐに広がったが、影響はそれだけの範囲に収まらないところが着目すべき点である。

 つまりファイアフォンを持っていれば、小売店でなくても、街中で「これが欲しい」と思った瞬間に検索できる。友人が履いている靴はいいなと思ったら、その場で検索。レストランで食事をした際のお皿のデザインがいいなと思ったら、その場で検索。友達の家に招かれて、そこで見かけた優れモノのグッズも、その場で検索。こうして、ショールーミングどころか、世の中全体が商品のショールームに変貌する。

 ファイアフライではカメラに加えてマイクで音声を認識して検索できる仕様になっているのだが、それを用いれば街中で聞いたBGMも購入できる。待合室でちょっと見ていた番組が気になれば、それも検索できる。現状でも24万タイトルの映画やテレビ番組が特定できるそうなので、以前途中で見逃した番組でもオンデマンド視聴をすることができるようになる。