東アジアの「超少子化」が止まらない。一人の女性が一生に産む子供の平均数を「合計特殊出生率」というが、2011年における日本の出生率は1.39、シンガポールは1.24、韓国は1.23、台湾は1.16、香港は1.09、マカオは0.92、上海は0.89だ。この中では、日本の出生率はまだ高く、12年の出生率は1.41に若干上昇したが、それでも人口減少のインパクトは大きい。
例えば、国土交通省が今年7月に公表した「国土のグランドデザイン2050~対流促進型国土の形成~」によれば、50年の人口が10年と比較して半分以下となる地点(全国を「1平方キロメートル毎の地点」で見る)が、現在の居住地域の6割以上を占めるという。そして、冒頭の「図表:人口が半分以下となる地点数」のとおり、人口が半分以下となる6割以上の地点のうち約2割が無居住化すると予測している。また、図表の下段「市区町村の人口規模別」にみると、人口規模が小さい地域ほど人口減少率が高い。現在の人口が1万人未満の市区町村は、人口が約半分に減少する。
このような予測から、いかに人口減少の問題が深刻であるかが把握できよう。そのため危機感から最近は、少子化対策を拡充し、出生率を引き上げる提言が相次いでいる。例えば、今年5月中旬、政府の経済財政諮問会議の下にある「選択する未来」委員会は「合計特殊出生率を2.07に上昇させ、50年後に人口約1億人を維持する」旨の数値目標を提言した。
しかし、このような数値目標には批判も多い。それは、女性に出産を押し付ける印象を与えかねず、1994年のカイロ国際人口開発会議で日本を含む約180カ国が採択した行動計画にも反するためだろう。同計画では、女性の権利として、「リプロダクティブ・ライツ」(全てのカップルと個人が自分たちの子供の数などを自由かつ責任をもって決定でき、そのための情報と手段を得ることができるという基本的権利)を確認している。
このため、政府の別の有識者会議である「少子化危機突破タスクフォース」が今年5月下旬にまとめた提言では、出生率などの数値目標は断念し、GDP比で現在約1%の少子化対策予算を2倍の2%に引き上げるよう求めた。欧州で出生率に数値目標を設けている国はないという指摘もあるが、現在のような危機的状況で、数値目標のない少子化対策は国民からその本気度を疑われる可能性がある。
出生率低下の主要因は未婚率の上昇
大雑把に表現すると、「出生率=(1-未婚率)×夫婦の出生数」という関係が成立する。夫婦の出生数は1970年の2.2から2010年の1.96までほぼ2で推移してきたが、30-34歳の未婚率は1970年の男性12%・女性7%から2010年で男性35%・女性25%まで急上昇してきた。つまり、出生率低下の主な要因は未婚率の上昇(晩婚化を含む)にあり、出生率増には未婚率を引き下げる政策が中心となろう。
だが、2010年の平均理想子供数は2.4人であり、未婚率が現状のままでも、少子化対策で夫婦の出生数を理想子供数に近づけられれば、出生率は1.6程度まで回復する。
その上、未婚率低下を促進できれば、出生率はさらに上昇する。少子化対策は未来への投資という視点をもち、待機児童ゼロや保育ママ・児童手当の拡充等のみでなく、少子化対策を企画立案する議会や審議会・企業等での女性のクォータ制導入や長時間労働の減少を含め、政権交代で継続性が疑われることのないかたちで異次元の少子化対策が望まれる。
(文=小黒一正/法政大学准教授)