元最高裁判所裁判官で明治大学法科大学院教授の瀬木比呂志氏が、今月16日に上梓した『ニッポンの裁判』(講談社現代新書)内で衝撃の告発をしている。2001年頃から与党である自民・公明党の圧力により、最高裁を中心に裁判所が名誉毀損の主張を簡単に認めるように基準を変え、賠償額も高額化させ、謝罪広告掲載要求なども積極的に認めるようになったことで、両党による実質上の言論弾圧が行われているというのだ。同書は最高裁の内幕を描く作品として、早くも法曹界を中心に大きな反響を呼んでいる。
告発内容を紹介するに当たり当時の状況を振り返ってみると、01年初頭、当時の森喜朗首相は度重なる失言問題により各メディアから猛烈な批判にさらされており、公明党も最大の支援組織・創価学会批判キャンペーンに悩まされていた。森首相は00年4月に、小渕恵三前首相が脳梗塞で倒れ緊急入院したことを受けて首相に就任した。
しかし就任早々、新聞各紙の「首相動静」について「ああいうのはウソを言ってもいいんだろ」と発言。マスコミの抗議に対して森氏は平身低頭の態度を取らなかったため、マスコミの態度も硬化していった。同年5月、森氏は「日本は天皇を中心とした神の国」と発言し(「神の国発言問題」)、同年6月には衆院選をめぐり「無党派層は寝ていてくれればいい」と発言。さらに同年10月の英ブレア首相との会談において「北朝鮮による日本人拉致被害者を第三国で行方不明者として発見する案」を、日本政府が北朝鮮との協議で提案したことを漏らすなど数々の失言で、メディアや世論から批判を浴びた。
ここからが瀬木氏の告発で明らかになったことだが、同書によれば、このような状況を受け自公は、01年3月~5月にかけて衆参法務委員会などで「名誉毀損裁判をどうにかしろ」と、裁判所を突き上げていた。そして最高裁は与党の意向を受け、裁判所の名誉毀損の基準を変更することを検討し、その結果、裁判所と関係の深い法律誌である「判例タイムズ」(01年5月15日号)が、「名誉毀損損害賠償請求については、500万円程度の賠償が相当」という元裁判官の論文を掲載した。
発売直後の01年5月17日には、最高裁に属する司法研修所で損害賠償の実務のあり方についての研究会が行われ、その研究会の趣旨が同誌(01年11月15日号)に掲載された。『名誉毀損による慰謝料額の定型化のための算定基準』と題されたその資料では、名誉毀損の損害賠償額の算定方法がマニュアル化され、賠償額算定基準のうち原告の社会的地位について、タレントは10点、国会議員・弁護士等は8点、その他は5点という設定がされている。これは、その行動について監視と報道が行われるべき政治家に対する名誉毀損については、高額な賠償を認めることを意味している。