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神樹兵輔「『縮小ニッポン国』のサバイバル突破思考!」

ヤマトのメール便廃止、「宅急便も違法」批判封じ目的?日本郵政と奇妙な談合

文=神樹兵輔/マネーコンサルタント
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ヤマトのメール便廃止、「宅急便も違法」批判封じ目的?日本郵政と奇妙な談合の画像1ヤマト運輸本社(「Wikipedia」より/Lombroso)

奇妙な「談合関係」が疑われるのに、問題にされない不思議

 好評だったヤマト運輸のメール便が3月31日をもって廃止になり、1カ月以上が経過しました。安くて便利なメール便がなくなったというのに、これといった大きな騒ぎも混乱も生じないまま不思議な静寂が漂っている状況は、筆者にとっては不可解至極です。

 ご承知の通り、メール便はA4サイズの大きさ(角2封筒以内)で厚さ1cm以下は82円、2cm以下は164円で、103円の追加料金を払えば翌日配達が可能(600km圏内に限る)、さらに追跡情報サービスまで付いた非常に優れた投函型配達サービスでした。料金、大きさ、付帯サービスにおいて日本郵政(JP)の定形郵便を圧倒的に上回るサービスでした。

 ヤマトの2013年度のメール便取扱高は20億8220万冊(11年のピーク時23億冊)で、売上高は約1200億円と同社全売上高の1割近くを占め、カタログやパンフレット送付を中心とする法人利用が9割を占めていました。これを先月31日受付分をもって廃止すると突然発表したのが、今年1月22日でした。次いで、メール便に代わる新サービスとして以下の3つを4月1日から提供すると発表しています。

・クロネコDM便……法人限定・上限164円で、中身確認のうえ価格設定。
・宅急便コンパクト……小型荷物専用BOXの2種類(BOX代65円)で送る、配達地域別の料金制(594~1188円)。
・ネコポス……A4サイズ以内で厚さ2.5cm以下、重さ1kg以下の荷物で、ヤマトと契約した法人・個人の事業者対象。上限378円で、数量による料金制。

 これまで個人も気軽に安く利用していたかつてのメール便とは、完全にその内容を変えてしまいました。もともと1割ぐらいしかいなかった個人客は切り捨てられ、料金を値上げし、事業者向けサービスの色彩が強まっているのが明らかなのです。もはや、これまでメール便を利用していた個人は、JPが14年6月16日からスタートさせている「クリックポスト」(A4サイズ以下・厚さ3cm以内・重量1kg以内・全国一律164円)へと移行するほかないのかもしれません。

権威や不合理と闘い続けた小倉昌男氏

 ヤマトの2代目社長だった故小倉昌男氏は、1976年に民間初の個人向け貨物サービスの「宅急便」をスタートさせ、同社を1兆円規模を誇る国内有数の物流事業会社に育て上げた立志伝中の人物です。宅急便にはその後、首都圏翌日配達、お届け時間指定、スキー宅急便、ゴルフ宅急便、クール宅急便と次々と便利なサービスが付加されます。

 小倉氏は国の規制を緩和させるために闘い続けてきた人物であり、旧運輸省(現国土交通省)や旧郵政省(現日本郵政、総務省)の官僚と激しくやり合い、規制に風穴を開けてきた人物でした。ヤマト社長を退任した後も、障害者の自立支援に奮闘するなど社会福祉にも多大な貢献をしています。そうした気骨あふれる経営者の意思を継ぐように、同社は成長発展を続けてきた会社だったのです。ちなみにメール便サービスは、小倉氏退任後の97年に法人向けでスタートし、04年に個人向けサービスを開始し、その便利さと安さで多くの人々の支持を得てきたものでした。

 今年1月22日に発表された突然の「メール便廃止」の理由は、そうした小倉氏のDNAやお客のために不合理な規制と敢闘してきた歴史を裏切る、なんとも後味の悪さを感じさせるものでした。その理由とは、「お客様が知らないうちに信書を送ってしまうリスクを防ぐ」というもので、ヤマトの説明は概ね以下のような内容でした。

「総務省の窓口に問い合わせても、信書の定義があいまいだった」
「荷受けの厳格化やお客への注意喚起にも努めたけれどもダメだった」
「現実的な解決策を専門委員会にも提起したけれど、規制の見直しは見送られた」

 そして、次のように正式コメントを発表しました。

「法律違反の認識がないお客様が、罪に問われるリスクをこれ以上放置することは、当社の企業姿勢と社会的責任に反するものであり、現在の規制が変更されないままではお客様にとっての『安全で安心なサービスの利用環境』と『利便性』を当社の努力だけで持続させることは困難であると判断し、クロネコメール便を廃止する決断に至りました」

 筆者には、「お客をダシに使った言い訳」としか思えません。たしかに郵便法には、信書の送達に民間業者が関わると3年以下の懲役または300万円以下の罰金の規定があり、02年には民間事業者も信書送達に関われる信書便法ができました。しかし、全国にポストを設置して毎日定時に集荷するなど条件が厳しすぎて、事実上民間業者は信書に関われないようになっています。

 しかし、なぜヤマトは信書の定義をめぐって徹底的に国と闘わないのか、定義があいまいなままなら宅急便の事業すら続けられないのではないか、という素朴な疑問が湧き上がるのです。宅急便の中には荷物だけでなく、以下のように総務省が信書に該当すると指定するものが多数同送されているのは、世間一般の常識だからです。

「手紙」「請求書」「領収書」「見積書」「契約書」「注文書」「依頼書」「結婚式等の招待状」「免許証」「認定証」「表彰状」「印鑑証明書」「戸籍謄本」「住民票の写し」「登記簿謄本」「保険証券」「品質証明書」「調査報告書」「受取人が記載されているダイレクトメール」

ありえない「信書」を定義した不可解な文言

 総務省のガイドラインによれば、信書は「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」だと規定されているとしています。そして、「特定の受取人」とは、「差出人がその意思又は事実の通知を受ける者として特に定めた者です」といい、「意思を表示し、又は事実を通知する」とは、「差出人の考えや思いを表現し、又は現実に起こりもしくは存在する事柄等の事実を伝えることです」といいます。そして「文書」とは、「文字、記号、符号等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物のことです(電磁的記録物を送付しても信書の送達には該当しません)」というのです。

 これを普通の読解力で判断するなら、宅急便に「ヨシオの大好きな庭の柿が熟したので送ります」というメモ書きを入れただけで、3年以下の懲役か300万円以下の罰金になるのです。結局、ヤマトは、価格面やサービス面でJPの定形郵便の領域を圧倒的に侵す分野から撤退すべくメール便をやめ、「阿吽の呼吸」でJPに恭順の意を表し、ついでに料金値上げでメール便より劣るサービスをつくることで、「信書の含まれる可能性大の宅急便事業存続の道を選んだ」と見るのは、あまりにも穿ちすぎでしょうか。

 国内宅配便市場は、ヤマト、JP、佐川急便の3社が9割を占めるほど寡占化が進んだ業界です。ヤマトがJPと阿吽の呼吸で「握った」としか思われないような今回のメール便廃止は将来、消費者にとってさらなる不利益をもたらさないのか気になるところです。
(文=神樹兵輔/マネーコンサルタント)

神樹兵輔/マネーコンサルタント

神樹兵輔/マネーコンサルタント

投資コンサルタント&エコノミスト。 富裕層向けに「海外投資・懇話会」主宰、金融・為替・不動産投資情報を提供している

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