進む少子高齢化と労働人口の減少は、日本経済に大きなインパクトを残します。2050年には、現在よりも約2000万人の労働人口(労働力)が減ることが統計的にも明らかになっています。労働人口が減少する一方で、2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控え、求人需要は今後もさらに増えることが見込まれています。労働人口減少の問題は、企業単体での問題ではなく日本経済全体の成長にかかる重要課題になっています。
この問題を解決するヒントとして注目視されているのが、「潜在(ポテンシャル)ワーカー」と呼ばれる方々です。2015年時点で未就労ながら、今後潜在的な働き手となりえるシニア、主婦(夫)、在留外国人は合計で約3,000万人存在するといわれています。
企業もこうした方々に注目を集め、「フレックス雇用」と呼ばれる柔軟な雇用条件を提供することで、積極的な採用活動を展開しています。
こうした、「潜在ワーカー × フレックス雇用」の事例を、『潜在ワーカーが日本を豊かにする』(武井繁/著、ダイヤモンド社/刊)からご紹介しましょう。
シニアが町を変え、働き方を変えた
徳島県上勝町にある株式会社いろどりは、1999年に第三セクターとして誕生し、地域活性化ビジネスの理想型として世界中から注目を集めています。
この会社の特徴は「葉っぱビジネス」という言葉に集約されます。「葉っぱビジネス」を担うのは平均70歳を上回る「いろどり農家」たち。いわゆるシニアスタッフの方々。約200軒の農家が320種類以上ものつまものを生産しています。
農家全体の年商は2億6,000万円にのぼり、中には年収1,000万円を稼ぐ農家もあるという、上勝町の一大産業に発展した「葉っぱビジネス」。シニアたちはパソコンやタブレットを使いこなし、ウェブで注文を管理します。もちろん、始めた頃はパソコンを使うなんて到底できないという人もいましたが、今ではビジネスを楽しんでいるシニアも珍しくありません。シニアが町に活性をもたらす。株式会社いろどりはその中心となっているのです。
1日4時間勤務でも正社員登用 主婦でも安心して働ける会社
主婦(夫)の力も「潜在ワーカー」として期待されています。一方で、働くためには家事や育児との両立が必要となり、家族やパートナーの理解が不可欠となります。働ける時間にも制約があります。
こうした課題をクリアし、多様な働き方を提供しているのが、株式会社クロスカンパニーです。クロスカンパニーの社員の90%は女性。だからこそ、彼女たちが長く働けるためにユニークな取り組みを行っています。
特に注目を集めているのが短時間勤務制度です。4時間または6時間勤務で正社員として入社することができるほか、フルタイムからの切り替えも可能。短時間勤務者は400人を超え、家庭と仕事の料理を目指す社員からは高い支持を得ているといいます。
背景にあるのが、クロスカンパニーの業態です。アパレルメーカーであるクロスカンパニーは直営店も経営しており、接客を重視しています。その中で結婚や出産というライフスタイルの変化を経験した女性の登用は大きな強みとなると考えているのです。
マジメで向上心の高い在留外国人
日本には約212万人の在留外国人がいるものの、アルバイトやパートとして働いているのはわずか約3割。その一方で、政府は2020年に向けて、現在の2倍強にあたる30万人の外国人留学生を受け入れる目標を掲げており、外国人が日本で働く場をより増やすことが企業にも求められています。
株式会社テン コーポレーション(「天丼てんや」を展開)では、上野店での成功事例を起点に、複数店舗で外国人の採用・積極活用を実施。今では、全国で約300名の外国人スタッフが働いています。外国人スタッフの優秀さを活かすべく、上野店店長・小野氏は、あえてチャレンジ環境を提示することで、「労働」ではなく「やりがい」や「成長の機会」を提供しています。人員が安定確保できるようになった同店では、今では他店舗の応援までもできる体制になり、社員の休日取得や労働環境の改善にも繋がっているといいます。
著者は、これから超高齢化社会に突き進む日本にとって、在日外国人の潜在労働力は大きな助けになると指摘しています。
雇用形態も、働き方も、これまでのような形だけでやっていくことは難しくなります。社会の多様化にともない、企業は働き方の多様化を模索すべきでしょう。
働き方の一つには、無償労働というボランティアという選択肢もあります。本書では、東京マラソンを始めとしたボランティア運営に携わる組織・個人の方も紹介されています。
そこには、「働くとは何か」の問いに答える学びがあります。
企業はもちろん、個人もまた、社会を豊かにする担い手であることを温かな気持ちで感じられる一冊です。
『潜在ワーカーが日本を豊かにする』には、こうした事例が数多く紹介されています。経営者だけでなく、幅広い人たちに読んでもらいたい一冊です。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。