しかし、市場関係者の間には「成長基盤は、まだ何も整備されていない。前期に同社設立以来初の最終黒字を達成したからといって、今期も黒字を達成できる保証はない」と、同社の成長を不安視する声が多い。「下請け体質が染みついている」といわれる同社は、本当に成長に向けた舵取りができるのだろうか。
赤字体質の要因は未解決
ルネサスが5月12日に発表した15年3月期連結決算は、最終損益が824億円の黒字となり、10年4月の設立以来初の黒字を記録した。
同社は、決算説明会で「今年度中に変革プランに基づく構造改革を完遂し、来年度から営業利益率2ケタを目指す成長にギアチェンジする」と、実質的なリストラ終了宣言を行った。
また、6月24日に開催された定時株主総会ならびに取締役会では、作田久男代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)が同日付で退任、今年4月からCEO付を務めていた遠藤隆雄氏が後任を務めることが発表された。
これに関して、同社は「現在取り組んでいる変革プランにおいて、財務基盤の安定に向けた構造改革に一定のメドがつき、成長に向けた半導体ソリューションのグローバルな提案力強化を進めている。今後、さらに成長を加速させるためには、当該分野において豊富な知見・経験と実績を持った新しいリーダーシップが必要であると判断し、新しい代表取締役会長兼CEOの選任を決定した。新しいリーダーシップの下、成長へのギアチェンジを行い、さらなる企業価値の向上を目指す」との声明を発表している。
オムロン会長だった作田氏がルネサスの会長に就任したのは、13年6月だ。円高や東日本大震災による工場被災などの影響で、同社の13年3月期連結決算は1676億円の最終赤字を計上、経営破綻の危機に陥った。
外資系投資ファンドによる買収説が流れる中、政府系投資ファンドの産業革新機構と大口顧客のトヨタ自動車など8社連合が同社の救済に乗り出し、同年9月に革新機構と8社連合による計1500億円の第三者割当増資が決まった。
その内訳は、革新機構が1383.5憶円で8社連合が116.5億円だ。この割当増資で革新機構は出資比率69.16%の筆頭株主となり、ルネサスは実質的に国有化された。
破綻は免れたものの経営再建の展望がない中で、革新機構からルネサス再建を託された作田氏は、生産拠点の集約、人員削減、液晶半導体子会社売却などのリストラ策をひたすら断行した。