10月1日、防衛省は新たに防衛装備庁を設置、武器などの防衛装備品の開発、輸出といった業務を担当させることになった。元は省内に運用企画局という部署があったが、これを廃止しての新設だ。初代長官は前防衛省技術研究本部長の渡辺秀明氏が就任したが、ここに加わるのが自衛隊員である統合幕僚監部だ。
「これは事実上、自衛隊の天下り先で、防衛省のいわゆる背広組にはとって大きな衝撃でもあった」
こう解説するのは、インデペンデント通信の軍事ジャーナリスト、西村純氏だ。
「自衛隊は防衛省の下部組織に位置していて、防衛省職員が背広組と呼ばれるのに対して、自衛隊は制服組と呼ばれています。背広組はいわゆるキャリア官僚で、退官後は天下りして悠々自適の生活を送るわけですが、今回の防衛装備庁に自衛隊員が入ってくることになれば、背広組のポストが減ることになるわけです。つまり、結果的に自衛隊サイドが背広組の既得権益を強奪したかたちになりました」(同)
ただ、自衛隊員は他の省庁と比べて構成要員が若いため、全般に定年退職年齢は低いとされ、以前から再就職先が課題となっていたという。
「例えば、最下級の士は18歳から志願できますが、任官期間は2年で30歳には定年。防衛大出身の幹部自衛官でも一佐(大佐)は56歳までです。さらに多くの自衛官はこの定年の前に“肩たたき”を受けることが慣例化していて、退官しても年金受給年齢にすら達していないんです」(同)
これを解決したのが安保法制の成立で生まれた防衛装備庁で、自衛隊員にも直接、企業とのコネクションができ、今後は天下り先へのルートが広がるという。
「それだけではなく、各国の軍隊では在外大使館に防衛駐在官という役職を置いて大使を補佐するのですが、これも元自衛隊員が横滑りして着任できる可能性が出てきました。当然、武器輸出の関連企業とのパイプもしっかりできるわけです」(同)
背広組も新たな天下り先確保に躍起
ただ、この自衛隊員の権利拡大に危機感を募らせる防衛省の背広組も、黙って見ているわけではなさそうだ。
「防衛装備庁は、早くも同庁の設立目的である武器輸出において成果を出しています。インドへの飛行艇輸出を決定し、オーストラリアへの潜水艦輸出も検討中です。輸出が決まるごとに外資企業への天下り先も増えてくると見られ、背広組はこのような外資へのルートを確保しようと躍起になっています。減った分は新たに増やせという動きです」
こうした話の証拠のひとつとなる録音テープには、自衛隊サイドの安保法案に対する“本音”も入っているという。伝え聞いた範囲でのおおよその内容は、「海外の軍隊には戦闘に入る基準の交戦規定があるのに、安保法は自衛隊がどういう状態に突入すれば戦闘可能なのか規定が曖昧。自衛隊の行動基準では、攻撃を受けた場合の反撃が許されているが、被害を受けてからでは、その時点で全滅してしまうかもしれない。今後は海外で死傷する危険も増えるのだから、危険手当を大きく出してほしい」というものだという。
危険の代償は天下りポストと手当、要するにカネで解決しろということか。
(文=ハイセーヤスダ)