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新見正則「医療の極論、常識、非常識」

抗がん剤は無意味で寿命縮める?治療に有効?具体的効果が出ないのに継続は愚行

文=新見正則/医学博士、医師
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抗がん剤は無意味で寿命縮める?治療に有効?具体的効果が出ないのに継続は愚行の画像1「Thinkstock」より

 先週の「極論君」は「医者に行くと早く死ぬ」と言っていました。今日の極論君は「抗がん剤を使うと早く死ぬ」と、また同じような論調でまくし立てています。一方の「常識君」は「がんもいろいろだから、効くものも効かないものもあるんじゃないの?」といった乗りで、いつもの無難な立ち位置です。

 まず、抗がん剤が著効(とっても有効)なことは確実にあります。でも、抗がん剤が無効なことも結構あります。たくさんの経験から、「こんながんやこんな患者さんには有効だ」といった著効例の推測に基づき、ある程度の「当たり」をつけることも可能です。そして、たくさんの症例の集積からガイドラインというものが識者たちの集まりで決められたりします。

 ともかく「抗がん剤のお陰」でがんが消失したり、がんが小さくなったり、がんと共存しながら予想以上に長く生きる人は現実にたくさんいます。は厚生労働省から認可される必要があり、臨床試験で有効性を確認できなければ市場に出ることはありません。その臨床試験の結果は、統計的に有益であることが説明できる結果ということです。これをエビデンスといったりします。ですから、グループ全体で見ると、飲まないよりも飲んだほうがいいし、抗がん剤の点滴をしたほうがしないで過ごすよりもいいのです。

 しかし、これはグループ全体の統計的有意差で、かつその差は多くの方が思っているよりも大きなものではありません。一般の方が「抗がん剤が有効だ」というフレーズに抱く印象は、飲まない人が3年でほぼ亡くなるとすると、多くの人が10年近く生き抜くようなイメージではないかと思います。

 しかし、そんなすばらしい差が出る抗がん剤はなく、またはごく限られたがんの場合のみで、通常は3年が3年半ぐらいに延びるというぐらいの違いです。でも、統計的には「有効」なのです。その延命効果はグループ全体のものですから、その中にはまれに奇跡のように長生きする人も含まれています。一方で、抗がん剤を使用したグループの中には、使用しないグループよりも短い命で終わった人も当然に含まれています。

重要な「当たり前の感覚」

「では、どうすればいいのか?」という根本的な問題が残ります。まず、経験的に効くことが多いと思われる薬剤は使用したほうがいいです。しかし、薬剤、特に抗がん剤は両刃の剣です。自分の体も痛めつけながらがん細胞を殺しているのです。がん細胞だけに有効な抗がん剤は、まだ開発の途中です。

 つまり、抗がん剤が効いていなければさっさと投与をやめましょう。そして可能性があるほかの抗がん剤が残っていれば、それを使用しましょう。

 有効性の判断は、基本的に腫瘍の大きさが小さくなる、または腫瘍の個数が少なくなる、または腫瘍マーカーの血液中の値が低下するという変化が指標になります。客観的指標で無効な抗がん剤を使用し続けるほど、馬鹿げたことはありません。自分の免疫力も奪ってしまいます。少なくとも抗がん剤を使用しているのに腫瘍が大きくなる、腫瘍の個数が増加している、腫瘍マーカーが上昇しているといった場合は、しっかりと主治医と今後のことを相談しましょう。

 また、がんが外科手術などによって検査上はなくなっている場合に、抗がん剤を使用するかも意見が分かれます。主治医としっかり相談しましょう。

 極論君が賛成していた「抗がん剤は使用しないほうが長生きする」という意見は、無効な抗がん剤を延々と使用するような医師や病院では概して当てはまることです。そんな病院の医師がしばしば口にするフレーズは、「ほかに治療法がないのだから、抗がん剤が効いていなくても仕方ないだろう。だからこれを続行するのだ」といった論調です。

 無効なら、ぜひとも投与をやめるべきです。そしてエビデンスには現れないような努力を積み重ねるほうが、ずっと長生きする可能性が高いと思っています。「エビデンスがないものは信じるべきではない」ともいわれますが、がんの進行を止めることができない抗がん剤を延々と使用してメリットがあるというエビデンスこそ、まったく存在しないのです。

 効くものは使う、効かないものは使用しないという当たり前の感覚で抗がん剤治療を考えれば問題ないと筆者は思っています。いつもは極論君を結構擁護していますが、今回の極論君の意見には賛成しかねます。
(文=新見正則/医学博士、医師)

新見正則/医学博士・医師

新見正則/医学博士・医師

1959年生まれ
1985年 慶應義塾大学医学部卒業
1985年~ 慶應義塾大学医学部外科
1993~1998年 英国オックスフォード大学医学部博士課程
1998年~ 帝京大学医学部外科に勤務

 幅広い知識を持つ臨床医で、移植免疫学のサイエンティスト、そしてセカンドオピニオンのパイオニアで、モダン・カンポウやメディカルヨガの啓蒙者、趣味はトライアスロン。著書多数。なお、診察希望者は帝京大学医学部付属病院または公益財団法人愛世会愛誠病院で受診してください。大学病院は紹介状が必要です。

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