ワキ汗を気にする人が男女問わず増えている。特に夏になると、汗が多く出るうえに薄着となるため、洋服の汗染みが目立ちやすい。そのため、服のワキの下部分に貼るパッドや、制汗剤が売り上げを伸ばしている。
ワキの下は汗腺の数が多いうえに熱がこもりやすいため、体のなかでもっとも多くの汗をかく部位といえる。そのため、ワキの下に制汗剤を塗って汗を抑えようという考えは古くからある。
そんな制汗剤は、時代と共に志向が変わってきた。1990年代までは清涼感が求められ、塗布することで涼しく感じる製品が主だった。2000年代に入るとニオイ対策を打ち出す製品が増えた。消臭剤や芳香剤、香料入り洗剤などの売り上げが爆発的に伸びた時期と重なる。
そして近年は汗を抑えつつニオイも予防する製品が求められるようになっている。制汗剤のなかでも、従来からあるパウダースプレータイプよりも、スティックやロールオンといった直塗りタイプが圧倒的に人気だ。
史上最も暑い夏になるとの予想もある今夏、汗対策は社会人にとって重要な関心事となっているのは間違いない。だが、安易に制汗剤を多用することには危険が伴う。
すべての制汗剤が危険というわけではないが、制汗剤には危険な物質が含まれていることが多々ある。
まず、最も多くの製品に使用されているのは塩化アルミニウムだ。これは汗腺を塞ぎ、汗そのものが出てくるのを抑える。その一方で、皮膚の荒れやかゆみといった副作用を引き起こすおそれがある。また、乳がん発症リスクも指摘されている。
塩化アルミニウム含有の制汗剤を体に塗ったからといってすぐにがんの危険が生じるわけではないが、皮膚に炎症や傷があるときに、その付近に制汗剤を塗布することで体内に塩化アルミニウムが入り、悪影響を及ぼす可能性が高まる。女性の場合、ワキのムダ毛処理をした後などに制汗剤を使うのは危険だ。
銀イオン配合の制汗剤も危険?
また、最近は銀イオンを含む制汗剤が増えている。銀は長い人類の歴史上食器等に利用され、食品添加物にも利用されることがあるため、人体に悪影響はないという説があるが、実は銀と違って銀イオンは強い毒性が指摘されている。
銀は化学的に極めて安定しており、イオン化しにくい。だからこそ、安全だといわれてきたのだ。しかし、6月1日付朝日新聞記事『金属アレルギー、ナノ粒子で発症か 阪大グループ確認』によると、銀イオンが金属アレルギーを引き起こすとみられるという。一方で、銀イオンは極めて強い殺菌、抗菌効果が認められることから、今や数多くの製品に配合されている。
ワキにはエクリン腺、アポクリン腺という2つの汗腺があり、それぞれから違う種類の汗が出る。そのうち、アポクリン腺から出る汗を栄養源として細菌が繁殖することが原因でワキガ等のニオイを発する。銀イオンは、その細菌自体を死滅させてしまうのでワキガを抑制できる。また、銀イオンには殺菌力だけでなく消臭力もあるため、すでに汗をかいてニオイが気になり始めてから使用しても効果を発揮する。そのうえ、効果はほぼ丸1日継続することから、制汗剤としてはこれほど有能な成分はない。
だからこそ、製薬メーカーは銀イオンの安全性を必死に訴えているともいえる。
塩化アルミニウム、銀イオンのいずれを使用した制汗剤であっても、化学物質には違いないため、化学物質過敏症を患っている人は口や鼻から吸入することはもちろん、触れるだけでも体に不調を来す。
また、ほとんどの制汗剤には強い香料が含まれているため、そのニオイが周りに不快感を与えることも多い。制汗剤を使用する際には、シャワーを浴びるなど一度汗を流してからでなければ、体臭と香料のニオイが混じり、かえって悪臭を生む場合もある。
さらに、制汗剤は、本来体が汗腺から排出しようとしている汗を止めるわけで、汗に含まれる汚れや不要物質といった老廃物を体内にとどめることになり、体臭が強まる可能性がある。加えて、制汗剤を使い続ければ、もともと人間の肌にいる常在菌が減って、悪い菌の増殖を抑えられなくなり、さらに体臭がきつくなるおそれもある。
ワキ汗が気になる人は、汗取りパッドなどを利用することをお勧めしたい。最近では、黒い服でも目立たない黒いパッドや、消臭機能が強化されたパッドもある。どうしても制汗剤を使わざるを得ない場合以外はなるべく使用を避け、使った後はしっかり洗い落として、さらに汗腺から汗を出して老廃物を溜め込まないようにするなど、意識したほうがいいだろう。
多汗症やワキガなど、どうしても汗やニオイがコントロールできない人は、医療機関に相談するといい。
(文=村上純一/医療ジャーナリスト)