2018年に強制わいせつの容疑で書類送検され、ジャニーズ事務所を退所し、芸能界を事実上引退したTOKIO元メンバー山口達也氏が、新会社「株式会社山口達也」を設立し、話題になっている。
引退に至った経緯には、アルコール依存症という問題も深く絡んでいた。引退後の山口氏は、アルコール依存症の治療に取り組んできたことから、自身の経験を生かし、アルコールをはじめとする様々な依存症に対する講演活動や「企業向けの危機管理セミナー」に取り組むことを明らかにしている。
誰もが人生につまづくことがあり、やり直すチャンスを与えられるべきである。しかし、今回の山口氏の新事業に関して、薬物乱用防止の啓蒙活動に取り組んできた筆者は、危うさを感じる。予防医療研究協会の理事長で精神科医の髙木希奈医師に、アルコール依存症について話を聞いた。
「アルコール依存症は慢性疾患であり、完治することはありません。『枯れ井戸現象』という現象があります。断酒を続けて、『もう治っただろう』『少しくらいなら大丈夫だろう』と思って少しでも飲酒をしてしまうと、それが呼び水ならぬ“呼びアルコール”となり、遅かれ早かれ、また元の依存症の時と同じような飲み方になってしまうという現象です。涸れた井戸に呼び水を注ぐと、再び井戸から水が湧き出てくることに例えられています」(髙木医師)
山口氏は、2020年にも酒気帯び状態でオートバイを運転し、道路交通法違反(酒気帯び運転)で警視庁に現行犯逮捕されている。更生中とされていた期間の飲酒トラブルに、世間は冷たい目を向けた。あの時のように山口氏が再び飲酒をしてしまう可能性もないとは言えないだろう。
「山口さんが禁酒(一滴も飲まない生活)を2~3年間継続できているのであれば、治療としては一段落といえます。しかし、アルコール依存症は脳の病気であり、『報酬系』というシステムが依存症の時の飲み方を記憶してしまっているため、これは生涯リセットされることはありません。一度依存症になってしまうと、“お酒を適度に飲む”“節酒”という飲み方ができなくなってしまうため、一生、治療(=断酒)を継続させなければならないのです」(同)
山口の新たな事業は、自身の治療でもあるといえるだろう。
「株式会社山口達也」のHPには、「私がこの度患っている『アルコール依存症』は、完治しないと医師に宣告されました」として、「この病気と一生付き合って行こうと決めました」「アルコールを一生一口も飲まない」など、山口氏の決意と覚悟が綴られている。
続けて、「2018年、2020年に私が起こしてしまった事件、事故につきまして、誠に申し訳ございませんでした 改めてお詫び申し上げます」と自身が犯した過去について謝罪し、「今は何故このような事態を招いたのか深く反省を続け、自戒をしつつ日々過ごしております」と現況を語っている。
これらを受けてネット上では、「強制わいせつや飲酒運転による事故を依存症のせいにして矮小化しているように見える」「未成年への強制わいせつはアルコール依存と関係ないのに酒のせいにしてごまかしている」など、批判的な声が噴出している。
山口氏の再出発に際しては、元妻や実兄から後押しするツイートが出されているほか、ファンからも応援する声が多くある。
山口氏には、これらの味方を裏切らないように社会貢献する姿を見せ続けてほしい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)