円形脱毛症は、頭髪の一部が円形に抜けることが主な症状で、原因は精神的なストレス、ホルモン異常、遺伝、自己免疫疾患などが挙げられています。頭髪だけではなく全身の体毛に及ぶこともあるそうです。
歯とは関係のない疾患に思われますが、噛み合わせの不調で大きな円形脱毛症になってしまった症例を体験しました。
患者は私の父親で当時64歳でした。右側頭部の頭髪がごっそり抜けてしまったのです。その時の父の歯の状態は上が総入れ歯、下が前歯だけが残っている部分入れ歯を入れていました。特に不自由なく使っていたのですが、噛み合わせと全身の勉強を始めたばかりの頃で、より良い入れ歯にしようと、親孝行のつもりでつくり替えることにしたのです。
新しい基準でつくった上下の入れ歯は、微調整を繰り返しながら、うまく機能し始めたため、定期検診に移行しました。
しかし、数カ月ぶりの検診に訪れた父は頭も口の中も別人になってしまっていました。写真のように右の側頭部の頭髪がごっそり抜け、数本残っていた下の前歯は虫歯と歯周病でボロボロになっていました。
父によると、新調した下の入れ歯のバネがきつくて痛いので、浮かし気味にして使っていたそうです。それではうまく噛めるはずもないのですが、だましだまし使っていたそうです。
また、まさか入れ歯の不具合と円形脱毛症が関係しているとは思いもせず、毛が抜け始める前から頭が寒くて毛糸の帽子をかぶって寝ていたそうです。
来院した父の姿を見て、私は愕然としました。円形脱毛症はうまく噛めなくなった入れ歯のせいだとすぐに気づいたからです。
新調した下の部分入れ歯は外れにくくするために、ガッチリとバネの効いたつくりにしていたのが裏目に出て、残っていた歯をだめにし、上下でうまく噛めない状態を強いてしまっていたのです。歯も歯茎も痛かったでしょう。我慢強い父は次の検診までごまかしながらお粥などを啜ってしのいでいたそうです。