「歯科治療とは何か」「歯科治療は一体なんのために受けるのか」――そんなことを考えたことのある患者さんは誰もいないでしょう。
では、一般医科ではどうでしょうか。内科、外科、産科、眼科、皮膚科など、沢山の科目がありますが、それらの治療は一体なんのために受けるのでしょうか。
この質問に、大多数の皆さんは「病気を治すため」と答えるでしょう。そうです。本来、すべての科目はお互いに協力して疾病を治し、その人の全身の健康を回復するために存在しています。
そのように考えると、歯科についても人の健康にかかわるひとつの科目としてとらえるのが当たり前です。その視点に立てば、歯科治療の目的は「口の機能を回復する」ことです。簡単に言ってしまえば、「食べる、しゃべる」を無意識にできる状態に回復するということです。決してただ単に歯を治すことではありません。歯を治すことを通して口の機能を治すという意識がなくてはならないのです。
しかしながら、今の歯科界は相も変わらず歯のみを見つめ、「木を見て森を見ず」です。口を治して全身の健康に寄与するという意識に欠けた歯科治療が横行しているのが現状です。
歯科治療で治すもの
以前から本連載で述べていますが、生命活動は摂食・呼吸のように体内に取り入れることと、取り入れたものを消化し排泄するという循環が滞りなく行われることであって、その入り口が口なのです。この命の源である口がストレスなくスムーズに働くようにするのが全身の健康に寄与する歯科治療です。
では、具体的に歯科治療では何を治さなくてはならないのでしょうか。大きく分けると5つあります。
(1)噛み合わせを整える
(2)顎関節の動きを整える
(3)顎の動きを整える
(4)噛みしめ対策を行う
(5)歯を治す
(1)は、虫歯に詰める、被せるといった処置をはじめ、入れ歯でもブリッジでも歯の抜けたところには処置をし、歯の本数をそろえ、噛み合わせを平均的に噛み合い、まんべんなく擦り合うように調整し、両奥の歯で無意識に食べられることができる状況を回復するということです。
(2)は、顎関節の動きに偏りや痛みがあれば、噛み合わせが良くてもうまく使いこなせないので、できる限り痛みなくスムーズに動く顎関節になるように開口訓練など、じっくりとしたリハビリが必要です。