9月7日、朝日新聞デジタルは『がん検診、「国の手順通り」4割どまり 市区町村』という記事を配信した。同記事によれば、2008年に国は、検診の精度管理のため従うべき手順を作成し、市区町村から事業者に委託する際に明記するように求めたが、国立がん研究センター(国がん)の研究者が全国約1700の市町村を対象に遵守状況を調べたところ、約6割の市区町村はこのルールを守っていなかったという。
記事内で、斎藤博・国がん検診研究部部長は「手順どおりに実施されなければ、いくら受診率を上げてもがん死亡率の減少という検診の目的を達成することはできない」と述べている。
この記事を読めば、誰もが「ルールを守らずに勝手なことをする検診業者は怪しからん」と考えるだろう。毎日新聞も同日、『<がん検診>自治体任せ、浮き彫り 質の確保、課題に』という記事を配信した。朝日、毎日ともに「国が決めた通りにがん検診を行うことは国民のためになり、勝手なことをする事業者を国はどんどん取り締まるべきだ」という立場に立っている。
では、この場合、国とは誰だろう。実は、がん検診の分野で国を動かしているのは、国立がん研究センターで、その中心が前述の斎藤医師だ。そして、同氏の専門は、胃がんに対するバリウム検診だ。つまり、自らがつくった基準が現場で遵守されていないことを批判したことになる。
斎藤医師の発言は、自らの利権を守るための抵抗という見方も可能だ。斎藤医師は2004年に国がんにがん予防・検診研究センターが開設された際、弘前大学から検診研究部長として招聘された。「選択」(選択出版/9月号)に掲載された記事によれば、がん検診を主な課題として、06年から17年までの間に主任研究者として、総額5億2200万円の厚生科学研究費を受け取っている。がん検診を含め社会医学研究には多くの予算は要さない。斎藤医師が受け取った研究費は異様だ。
胃のバリウム検査は、時に重大な副作用をもたらす。筆者の知人である南相馬市立総合病院の金澤幸夫・前院長も、胃のバリウム検査後に消化管穿孔を生じ、腹膜炎を発症した。緊急手術を受け、長期入院することとなった。回復後、金澤院長は経緯を公表した。これは氷山の一角だろう。
幸い、金澤院長は回復したが、死亡することもある。バリウム検査は絶対に安全とは言いがたい。その施行にはリスクとベネフィットを勘案すべきだ。ところが、リスクについては、ほとんど議論されていない。