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近年の研究により、胃がんの99%はピロリ菌の慢性感染が原因であることがわかった。検査は感染歴がある患者に限定するのが合理的だ。また、バリウム検査は見落としが多いことが知られている。7月、青森県はバリウム検査による胃がん検診では約4割の患者を見落としていると報告した。内視鏡検査は見落とし率が10-20%程度。内視鏡と違い、バリウム検査の場合、病変部の生検もできない。
さらに被曝も問題だ。集団検診での被曝量の平均は2.9ミリシーベルトで、胸部X線撮影の約100倍。バリウム検査と内視鏡、どちらが有用かは議論の余地がない。
ところが、我が国はいまだにバリウム検査に固執している唯一の国だ。なぜ、このようなことになっているのだろう。
成功体験
それは、我が国の医療界にとって、忘れることができない成功体験があるからだ。胃がんのバリウム検査は、X線二重造影法と呼ばれ、1950年代に千葉大学の白壁彦夫医師が中心となって開発した。彼の後を継いだのが市川平三郎医師だ。彼は、62年に開院した国立がんセンター病院に異動し、研究を続ける。この方法は画期的で、世界の胃がん診断を変えた。
X線二重造影法の開発に苦慮する様子は、79年に柳田邦男が『ガン回廊の朝』(講談社)で発表した。この作品は『マッハの恐怖』(新潮社)と並ぶ柳田の代表作で、79年に第1回講談社ノンフィクション賞を受賞する。筆者が医学生だった頃(87-93)、医学生にとっての必読書ともいえる存在だった。
一連の業績が評価され、市川医師は76年に院長に就任する。1989年に国がんを定年退職するが、「しばしば国がんを訪問し、『バリウムをしっかりやっているか』と後輩たちを叱咤した」(元国がん幹部)という。
国がんとならぶバリウム検査業界の中核は東北大学だ。国がんが二重造影法を開発したのに対し、東北大はがん検診への応用に先鞭をつけた。中心人物は黒川利雄医師だ。黒川医師は22年に東北大学を卒業し、山川内科で研修した内科医。30年にウィーン大学に留学し、消化管の放射線診断を学んだ。黒川医師は41年に内科学第3講座教授、48年に医学部長、57年に総長に就任する。さらに、58年には宮城県対がん協会会長も兼任する。
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