高齢化が進む日本では、医療費抑制が喫緊の課題だ。一方、新規薬剤や治療法の価格は急騰している。先進医療をどうやって日本に導入するか、難しい問題だ。やり方次第では、我が国の医療システムを破壊しかねない。最近、興味深い報告があった。それは山形大学のケースだ。
5月17日、毎日新聞は山形版で『重粒子線治療事業 赤字48億円か 27年度まで累積試算 山大医学部』という記事を配信した。
重粒子線治療とはがんの放射線治療の一種だ。炭素イオン線で病巣をピンポイントに攻撃するため、正常組織への障害を抑えながら、病巣を集中的に治療できる。ご興味のある方は『がん重粒子線治療のナゾ』(川口恭著、大和出版)をお読みいただきたい。この治療法がいかに画期的で、我が国が世界の研究をリードしてきたかがわかる。
重粒子線治療の問題は、特殊な装置が必要なため、初期投資が高いことだ。毎日新聞の記事によれば、山形大学は2015~18年度に約150億円を投資する。さらに維持費に年間6億4300万円を要する。高額なコストが参入障壁となり、山形大学を含め6カ所しか導入されていない。
では、山形大学はどうやって重粒子線治療を維持するつもりなのだろう。山形大学が公開している15年度の財務諸表を用いて、税理士である上田和朗氏に推計してもらった。
年間の維持費は、前述のように6億4300万円だ。初期投資150億円の内訳を建物70億円、重粒子線照射器機70億円、さらに償却期間をそれぞれ40年、10年と仮定した場合、その費用は約15億円となる。これに人件費と光熱費がかかる。1人当たりの治療費を他施設並みの350万円とすれば、年間に430人以上を診療しなければ、施設は維持できない。
日本の重粒子線治療をリードする国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の放射線医学総合研究所(千葉市)の年間治療患者数は745件(15年度)だ。不可能な数字ではない。
ただ、山形大学の試算は弱気だ。毎日新聞によれば、23年度にフル稼働した際の受け入れ患者は271人としている。収入は最大で9億4850万円となる。山形大学の試算の根拠は、群馬県の先行事例だ。フル稼働した13年度に496人が治療しており、都道府県別のがんの罹患患者数を勘案して推計したらしい。