この結果、もっとも楽観的な観測で年間約5億5000万円の赤字。8年間で44億円の赤字となる。毎日新聞の記事にある48億8200万円と同レベルの推計となる。山形県内には十分な患者がいないため、国内外に「営業」して患者を集めるか、1人当たりの治療費を555万円以上に値上げしなければ重粒子施設は維持できない。
筆者の知る限り、いずれの方向の議論も進んでいない。国公立病院が苦手とすることだ。現状では、重粒子線治療の実用化は、神奈川県などの財政規模の大きい富裕な自治体を除けば、運用は難しいと思われる。もちろん、重粒子線治療の技術革新が進み普及すれば、固定費は低下し、一般診療になる日がくるかもしれない。ただ、それには時間がかかる。山形大学には、そんな悠長なことをいっている余裕はない。
重粒子線治療事業の経営実態
15年度の財務諸表によれば、山形大学全学で7億5610万円の黒字だが、これは運営費交付金115億8572万円と資産見返負債戻入19億6557万円が加味されてのもの。後者は、独立行政法人などで補助金で償却資産を取得した場合に、「定期的に補填される」とみなし、減価償却を損益計算に反映させる制度だ。もちろん、運営費交付金の削減が進む昨今、「定期的に補填される」確約はない。上田氏は「下駄を履かせているだけ」と断じる。
山形大学の「国立大学法人等業務実施コスト計算書」を見ると、自己収入276億1259万円(うち病院収益189億9万円)に対し、費用は412億9946万円もかかっている。もろもろあわせて、国民が負担する「国立大学法人等業務実施コスト」は総額で158億7758万円だ。つまり、現状で一本立ちできていない。
この状況は月収23万円(年収276万円に相当)しかない人が、毎月34万円も使い、親から11万円ずつ補填してもらっているのと同じだ。親は年老い、医療費に金がかかる。可処分所得は減っており、放蕩息子の面倒をいつまでもみることはできない。
この息子が、さらに6.5カ月分の月収に相当する150万円を借りて、新規事業を立ち上げようとしている。見通しは甘く、借金を返すどころか毎月5000円ずつ赤字がでる。さらに親の負担は増えることになる。
おそらく、これが山形大学の重粒子線治療事業の経営実態だろう。