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旧第一勧銀の不良債権の受け皿会社の末路

フェラーリにも影響! 地銀に会社更生法を申請された小野グループ

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post_968.jpg10年のツケは重い。(「小野グループ」HPより)

「金融機関が融資先の法的整理を申し立てるなんて、異例中の異例のことだ。何があったのか」。

 関係者に衝撃が走った。

 10月26日、地方銀行中位の福井銀行が、ある会社の会社更生法を東京地裁に申請した。申請されたのは小野グループ(福井市)の中核3社。小野グループといえば旧第一勧業銀行(DKB)の抱えていた不良債権の“受け皿機関”として、つとに有名だった。2002年4月、旧第一勧銀、旧富士銀行、旧日本興行銀行の3行が統合して、みずほホールディングス(現みずほフィナンシャルグループ)が誕生するまでは、DKBと蜜月な関係にあった。

 福井市内で会見した福井銀行の伊東忠昭頭取は、これに踏み切った理由として「10月上旬に3社から『過去10年にわたって不正な経理処理があった』ことと、『10月末の資金繰りに窮している』との報告を受けた」と述べた。小野グループは現経営陣による自主的な再建を望んだが、福井銀行は不正経理に対して「裁判所の監督の下、透明性、公平性の高い再建手続きが必要になる」と判断し、「会社更生法による法的措置を選択した」と説明した。

 関係者によると、「多数の偽造・改竄された資料が銀行に提出されていたことが判明した。小野グループは元利の返済の猶予を申し出たが、(銀行が)“悪質”と判断。法的手続きに踏み切った」という。

 福井銀の会社更生法申立書には「小野グループは巧妙な方法を用い、多額の粉飾決算を行い、残高証明書、当座取引計算書まで偽造する悪質性の高い行為があった」と書かれている。

 経営破綻したのは軽金属鍛造のワシ興産(小野光太郎社長)、自動車用鍛造ホイール製造のワシマイヤー(小野稔社長)、プラスチックメガネレンズメーカーのアサヒオプティカル(同社長)の3社。3社の負債総額は369億円。3社合計で300人の従業員がおり、福井県では過去最大規模の倒産となる。

 福井銀は「3社に対する181億6300万円の貸出債権について、取立不能または取立遅延のおそれが生じる」とし、13年3月期の9月中間決算で178億円を損失処理する。これに伴い、業績を大幅に下方修正。連結最終損益は、16億円の黒字から136億円の赤字に転落した。一方、ほくほくフィナンシャルグループ傘下の北陸銀も3社に対して127億8200万円が取り立て不能、または遅延のおそれがある。12年9月中間決算で損失処理するが、連結業績予想は据え置いた。とはいっても、福井県だけでなく石川、富山の3県の地元企業の資金繰りに影響が出ることは避けられない。銀行の融資姿勢が厳しくなるからだ。

 ワシマイヤーは、自動車用鍛造ホイール「BBS」ブランドで知られている。英ベントレー、英アストンマーチンなどの最高級車種向けにホイールを供給している。ワシマイヤーが、ドイツのBBS社と技術提携してアルミ鍛造ホイールの出荷を始めたのは84年のことだ。

 92年からマグネシウム鍛造ホイールをフェラーリーのF1チームに供給。F1へのホイール供給が始まった。今年もメルセデスAMG、フォース・インディア、ケーターハム、マルシャなどへホイールを供給。11年にはBBSの商標権や鍛造ホイール部門を買収し、メッシュタイプで世界的に人気が高いBBSホイールを製造に乗り出した。

 業績を見ておこう。09年12月期に120億4900万円の売り上げがあったが、11年同期は東日本大震災やタイの洪水被害により、自動車メーカー各社が減産したため受注が激減。売り上げは45億8500万円に落ち込んでいた。

 小野グループを率いる小野光太郎氏(80)は立志伝中の人物だ。ドイツ連邦共和国名誉領事を始め、英国エジンバラ公財団国際ベネファクター、英国オックスフォード大学名誉フェロー、カナダ・ブリティッシュ・コロムビア大学総長サークル委員、米国カーネギーホール国際諮問委員などの公職を務める国際人である。

 56年明治学院大学経済学部卒。東洋棉花(現トーメン)に勤務していた時に、ドイツの糸巻き機械メーカー、カール・マイヤーにスカウトされ、68年に日本法人の日本マイヤーを設立した。その後、M&Aを重ね、最盛期には28社が小野グループを形成。現在は小野ホールディングス(小野光太郎社長)を持ち株会社として、倒産した3社の中核事業会社をはじめ、13社で構成されている。

国会議員にも追及された旧第一勧業銀とのふしだらな関係……

「過去10年近くにわたる不正な経理処理」(福井銀行)をメインバンクは見抜けなかったことになる。なぜ、10年にわたって粉飾を続けてきたのだろうか。この謎を解くカギがDKBなのだ。

 みずほホールディングス(現みずほフィナンシャルグループ)が誕生するまで、小野グループがDKBの抱えた不良債権の受け皿会社であったことは周知の事実だ。このことと今回の不正経理が、密接に関係しているのではないのかと疑われる。金融業界で小野グループは「一勧のゴミ箱」といわれてきた。

 みずほの発足に当たり、金融庁は旧3行に厳格な不良債権の処理を迫った。みずほは02年10月、DKBが小野グループに飛ばしていたニッセキハウス工業(東証1部)と寿工業(東証2部)の倒産処理に踏み切った。しかし、DKBから飛ばされてきた不良債権はまだまだあり、それが残ったままになったのではないのか。これを隠すために、粉飾決算を「10年にわたり続けてきた」ということなのだろう。

 小野氏とDKBにつながりができたのは、オイルショック当時にさかのぼる。過剰投資で資金繰りに窮していた日本マイヤーに、DKBが救いの手を差し延べたからだ。以来、DKBのお荷物になっていたローヤル電機、サンクス、寿工業、総武カントリー倶楽部などを引き受けた。96年暮れに創業社長が失踪し、1年後に白骨死体で発見されたことで大騒ぎになったニッセキハウス工業の再建も引き受けた。小野氏は「自分で買収会社を探したことは1度もない」と豪語していた。すべてDKBの仲介案件だったからである。

 小野氏は不良債権の塊のような会社をタダで引き受けるようなお人好しではない。「見返りがたっぷり用意されていた」(DKBの元幹部)のだという。

 02年2月に参院財政金融委員会で、共産党の大門実紀代史議員が追及したコンビニエンスストアのサンクスの転売にも関係していた。サンクスは衣料スーパー、長崎屋のコンビニ子会社だった。

 94年2月、経営危機に陥っていた長崎屋の再建策の一環として、メインバンクのDKBは、サンクスを小野グループに108億円で売却した。4年後の98年10月、小野グループはサンクスをサークルケイに370億円で転売した。現在、コンビニ業界第4位のサークルKサンクスである。小野グループは、サンクスの転売で262億円の差益を手にしたことになる。

 大門議員はこう追及した。

「小野グループそのものは資金を持っておらず、第一勧銀の資金で売買やっていますから、その見返りが第一勧銀に入るという仕組みです。私は非常に背任の疑いがある事例だというふうに思います」(国会の議事録より)

 小野グループとDKBはずっと「持ちつ持たれつ」の関係にあった。だが、みずほホールディングスの発足で、旧DKBの人脈と金脈が切れた。02年10月、ニッセキハウス工業と寿工業がダブル倒産したことが、これを証明している。当時、「小野グループは終わりだ」との声もあったが、どっこい、しぶとく生き残った。しかし、いつまでも粉食決算が続けられるわけにはいかない。10年余で命運が尽きたのだ。

 ワシ興産が会社更生法を申し立てられたことで、動向が注目される企業がある。ジャスダック上場のローヤル電機だ。複写機などに使われている小型送風機の大手。ローヤル電機はワシ興産に100%出資する小野ホールディングスから67.1%の出資を受けている。会長が小野光太郎氏、副社長が小野稔氏だったが、「一身上の都合」で両氏をはじめ3人の取締役が10月25日付で辞任した。

 ローヤル電機は「ワシ興産に対する貸付債権、12億円について取り立て不能のおそれがある」と発表した。同社の6月末時点の連結純資産は52億円弱。12億円が取り立て不能になれば影響は決して小さくない。後ろ盾になっていたワシ興産(=小野グループ)が倒産したわけだ。小野ホールディングスが保有するローヤル電機の株式(291万株、発行済株式の67.1%)がどうなるかを含めて関心が集まっている。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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