しまむらが相変わらず不調だ。昨年12月25日に発表された2018年3~11月期の連結決算では、売上高が前年同期比4.0%減の4099億円、純利益は42.7%減の137億円だった。気温が例年より高く、防寒肌着や寝具など冬物商品の販売が振るわなかったという。
主力の「ファッションセンターしまむら」は、壊滅的だ。売上高は前年同期比5.5%減の3185億円だった。「誕生祭」や「感謝祭」などのセール企画を打ち出したが不発に終わった。既存店売上高は前年を下回る月が続き、3~11月期では4月を除いた8カ月がマイナスとなっている。続く12月は7.8%の大幅減となった。12月まで8カ月連続での前年割れだ。
あわせて、野中正人代表取締役会長が体調不良のため12月31日付で辞任すると発表した。野中氏から辞任したいとの申し出があったという。
野中氏は1984年にしまむらに入社。商品部や経理部の部長を経て、05年5月に代表取締役社長に就任。18年2月に社長を退任し会長に就任した。
野中氏が社長に就任した06年2月期の売上高は3258億円。リーマン・ショックによる消費低迷で09年2月期こそ減収となったものの、それ以外では増収を重ねてきた。社長退任直前の17年2月期(売上高5654億円)まで8期連続で増収を達成している。しかし、退任した18年2月期(5651億円)は、わずかながら減収となった。そして先述した通り、その後の3~11月期も減収となるなど苦戦が続いている。新社長のもとで再成長を目指しているものの、成果が出ていないのが現状だ。野中氏としては、後ろ髪を引かれる思いがあるなかでの会長辞任だったに違いない。
しまむらの不振の理由は、さまざまなメディアで指摘されている。筆者もいくつか指摘してきた。理由のひとつとしては、全店規模で売り場レイアウトを変更したことが挙げられる。売り場の回遊性を高めることを目的に陳列量と陳列スペースを減らしたのだが、それによりしまむらの魅力のひとつである「宝探し」の要素が低下してしまい、売り上げ低下の要因となった。
ネット通販への対応の遅れもある。しまむらは実店舗での販売にこだわってきたため、ネット通販への対応が遅れていた。そうしたなか、ゾゾタウンやアマゾンといった、衣料品を扱うネット通販事業者が伸長し、しまむらから顧客を奪っていった。重い腰を上げるかたちで昨年7月に初のオンラインショップとしてゾゾタウンに出店したが、認知度などはまだまだで、収益の柱となるのは当分先だろう。
そして「商品力の欠如」が不振の大きな要因となっている。売り場レイアウト変更による問題は、試行錯誤していくなかで最適なものを探してそれに修正すればいいだけなので、それほど大きな問題ではない。ネット通販への対応もそうだ。遅きに失した感が否めないが、当面は成長していくだけなので、今は大きな問題とはいえない。しかし、商品力の欠如は、これらと違って簡単に解決できる問題ではない。これまでの積み重ねがものをいうからだ。
しまむらの構造的問題
また、「構造的な問題」が横たわっていることが解決をより困難なものにしている。構造的な問題とは何か。それについて知るために、しまむらの歴史を少しだけ振り返ってみたい。
09年ごろ、しまむらで購入した衣料品で全身をおしゃれにコーディネートする人を表す「しまラー」が社会的なブームになった。カリスマモデルと呼ばれた益若つばささんがしまむらの服でコーディネートしていることが話題となり、それから一気に広まっていった。
しまむらはユニクロのようなSPA(製造小売り)ではなく、バイヤーがサプライヤーから商品を仕入れて販売する方式を採用している。低価格を実現しやすいSPAではないものの、返品なしの「完全買い取り」で大量仕入れしているため仕入れコストを抑えることができ、それにより低価格での販売を可能にしている。この安さがしまラー増殖の原動力となった。
近年はSNS(交流サイト)が普及し、それに伴い、しまむらの店舗に定期的に通い、掘り出し物を探す「しまパト」(「しまむらパトロール」の略)が広がった。特に写真共有アプリのインスタグラムが広まった10年代中頃にしまパトがクローズアップされるようになった。しまむらは、購入商品の画像を投稿できる掲示板「みんなの『#しまパト』活動報告」を自社のホームページで運営するなどしてしまパトを盛り上げ広めていった。
この10年は、しまラーやしまパトがしまむらの業績を引っ張ってきた側面があったように思う。しまラーやしまパトがメディアで取り上げられ、それによりしまむらに関心が集まり、集客に結びついていったと考えられる。しまむらの客数は18年3~12月こそ前年同期比2.4%減とマイナスになったものの、それ以前は前の期を超える期がほとんどで、しまラーやしまパトが大きな貢献を果たしていた。
ただ、現在はしまラーやしまパトによる盛り上がりは一服している。今となってはしまラーやしまパトがメディアで取り上げられることはほとんどなく、ブームが去ったと言っていいだろう。そのため、しまむらの商品力が改めて問われている。しかし、しまラーやしまパトなどのブームに甘んじて商品開発力を磨くことがなおざりになっていた感が否めず、それにより商品力の欠如が露呈している。このことが業績を悪化させる要因となっているのではないか。
オリジナリティの欠如
しまむらは商品の多くをサプライヤーから仕入れていることはすでに述べたが、これにはデメリットがある。サプライヤーに依存する部分が多いため、自社で商品企画から販売までを手がけるSPAと比べてオリジナリティのある商品の開発が難しいのだ。
たとえば、SPAのユニクロは東レと共同で素材開発と商品開発に取り組み、機能性が高くオリジナリティのある商品を生み出すことに成功している。また、02年に「デザイン研究室」を設立したり、16年にエルメスの元デザイナーであるクリストフ・ルメール氏を研究開発の幹部として起用するなどしてデザイン性を高めている。
かつては、着ている服がユニクロであることがバレて恥ずかしく感じる「ユニバレ」という言葉が広まるなどユニクロのデザイン性は決して高くはなかったが、デザインの強化を図ってきたことにより、今となってはユニクロを着ていて恥ずかしいと思う人はかなり少なくなっている。機能性とデザイン性を兼ね備えたオリジナリティのある商品がそれを実現したといえるだろう。
一方、しまむらの場合、サプライヤーに頼る部分が多く、オリジナリティの追求に限界がある。もちろん、プライベートブランド(PB)を開発するなどしているが、大きな成果を出しているとはいえない。PBの「裏地あったかパンツ」が機能性の高さと独創性が評価されてヒット商品となったが、それ以外では見当たらない。オリジナリティがないというのは、しまむら“らしさ”がないということであり、裏を返せば、しまむらでなくてもいいということになる。こうして客離れが起きていると考えられる。これは、デザイン性の欠如も影響しているだろう。
こうしてみると、しまむらはSPAでないことが大きな弱みになっているように見える。商品力を高めることにおいて多くをサプライヤーに頼らなければならないビジネスモデルであり、オリジナリティの追求に自ずと限界が生じてくる。知らず知らずのうちにサプライヤーに負んぶに抱っことなってしまい、オリジナリティの追求に甘さが生じていったのではないか。
このことが商品力の欠如における「構造的な問題」と筆者は考える。この構造的な問題を解決することは簡単ではない。今からSPAを導入することは非現実的だ。今の枠組みで対応しなければならない。月並みな表現だが、地道に商品力を高めていくしかないだろう。仕入れの目利き力を高めるとともに、PBを中心にオリジナリティを追求し、一歩一歩商品力を高めていく必要がありそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)