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有馬賢治「日本を読み解くマーケティング・パースペクティブ」

ソフトバンク、PayPay100億円還元で“派手に煽って”得たもの&失ったもの

解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季
ソフトバンク、PayPay100億円還元で“派手に煽って”得たもの&失ったものの画像1ソフトバンク・孫正義会長兼社長(「アフロ」より)

 ソフトバンクとヤフー・ジャパンが共同出資で始めた新決済サービス「PayPay」は、12月4日より「100億円あげちゃうキャンペーン」と銘打ち、購入額の20%をユーザーにキャッシュバックするという大胆なキャンペーンを行った。これは大きな話題を呼び、わずか10日間で原資の100億円に到達して、最長で3月31日までと設定されていた期限をはるかに繰り上げてキャンペーンは終了となった。

 これを機に、PayPayの知名度は飛躍的に上がったわけで、キャンペーンとしては成功といえるが、果たしてマーケティングの観点から見るとどうなのだろうか。立教大学経営学部教授でマーケティングが専門の有馬賢治氏に話を聞いた。

後発サービスは浸透させるのが至難の技

「商品やサービスの主なプロモーションの方法には、CMなど自社主体による宣伝である『広告』、ニュースの特集コーナーなどメディア主体のコンテンツで露出する『パブリシティ』、サンプル品や景品を配布したり、商品におまけをつけて即効的に販売促進する『セールス・プロモーション(SP)』、そして人的な販売活動の『パーソナル・セリング』の4つがあります。PayPayが行ったキャンペーンのキャッシュバックは、このうちの『セールス・プロモーション(SP)』にあたる即効的な戦略でした」(有馬氏)

 100億円という大きな金額をキャッシュバックに使うインパクトは、消費者に大いに伝わった。この金額は、独特なCMで認知度を広げたハズキルーペの広告キャンペーン費に相当する。PayPayの場合は、キャッシュバックの原資に加えて、テレビやネットにも多数広告を打っているので、キャンペーン全体での投資額は100億円をはるかに上回る。その結果、電子決済サービスとしては「LINE Pay」「Origami Pay」「楽天ペイ」「d払い」の後発ながら、ユーザー数を増やすことに成功した。

「今回は、SPを中心に広告やパブリシティがうまくかみ合って短期的には知名度を上げ、利用を促進することには成功しました。ですが、逆に言えば、それだけ予算をかけて投資しなくては後発サービスに乗り換えてもらうのは難しいということです。家電製品などのモノと違って、サービスというのは後発に模倣されやすいという特性から逃れられず、どの企業が提供するサービスも似たり寄ったりなものになりがちです。しかも、電子決済サービスともなれば、消費者はその差を理解しづらいため、最初に使ったサービスからの乗り換えは起きにくいのです」(同)

インパクトでユーザーを集め、信用度低下でユーザーを手放す

 サービスを乗り換えさせるとなると、消費者心理的に強い動機付けが必要となる。それが現状利用しているサービスに対する信頼感の低下か、乗り換えるに足る新サービスのインパクトだ。PayPayは後者で見事に煽ることに成功した。

「ところが、登録したアカウントが削除できなかったり、セキュリティ対策の甘さから、不正利用の被害に遭ったユーザーが続出したりといった後日談がここにきて報道され始めました。さらに、共同出資をしているソフトバンクのスマホ回線では大規模な通信障害もありました。こういった安全性に関わるトラブルが続くと、PayPayやソフトバンクへの信用は一気に失墜する恐れがあります。しかも、短期的で即物的なプロモーションでスイッチング(乗り換え)させただけに、ユーザーに愛着を形成させる以前に見限られてしまう可能性も十分考えられます」(同)

 今度は自身の失策によって乗り換えさせる要因をつくってしまっているわけだ。これを踏まえて有馬氏は、「いくら後発サービスとはいえ、こういう派手なことで利用者を得るのではなく、もっとじっくりとキャンペーンを行ったほうが、中長期的には利用促進になったのでは」とのこと。アグレッシブなソフトバンクの企業体質が、今回のケースにおいては裏目に出ているのかもしれない。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)

武松佑季/フリーライター

武松佑季/フリーライター

1985年、神奈川県秦野市生まれ。編集プロダクションを経てフリーランスに。インタビュー記事を中心に各メディアに寄稿。東京ヤクルトファン。サウナー見習い。

Twitter:@yk_takexxx

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