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福島原発処理水、松井市長の「大阪湾放出」構想は不可能…すでに福島では地下水放出

文=編集部
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福島第1原発に並ぶタンク群(ロイター/アフロ)

 大阪市の松井一郎市長が17日、東京電力福島第1原発の汚染水処理をめぐり、「処理済みで自然界の基準を下回っているのであれば、科学的根拠を示して海洋放出すべきだ」と発言。大阪湾での処理水の受け入れもあり得るとの認識を示したのだ。その後、大阪府の吉村洋文知事も同調し、放出となれば府として協力する考えを明かしたという。

国民的議論の端緒か

 第4次安倍改造内閣発足前の10日、原田義昭前環境相が閣議後の記者会見で、処理水を「思い切って放出して希釈する以外に、ほかにあまり選択肢がない」との見方を示して物議をかもしたことは記憶に新しい。原発事故をめぐっては、原子炉の冷却に伴う冷却水からトリチウム以外の放射性物質を除去した「処理水」が毎日170トン蓄積され続けている。これをどうするのか、国民的な議論が必要なのは理解できるが、「大阪湾流出」の唐突感は否めない。

 政府関係者は次のように語る。

「原田さんが提起した問題を受けて、前々から同様の主張だった日本維新の会が議論の端緒にしたということでしょう。国民的な議論を起こすには福島での放出より、住民が多い『東京や大阪で放出すべきだ』としたほうが盛り上がると考えたようです。誰しも自分たちの身になってみないと真剣に考えません。

 ただ、現実論として福島から処理水を船やタンクローリーで運ぶ輸送コストは膨大なものになるでしょう。また輸送路の住民に対する理解を得るのにどれほどの年月がかかるか疑問です。仮に大阪に放出するための設備を建設するとなった時、地権者との交渉はどうするのか。瀬戸内海全域の漁業者に対する風評被害補償はどのように行うのか。論理的に可能でも、政策としては不可能だと思います」

 そもそも、「処理水」とは何か。メルトダウンした福島第1原発の原子炉は絶えず冷却し続ける必要があるのだが、その際、大量の水が必要になる。原子炉建屋やタービン建屋に流し込んだ冷却水はストロンチウムやセシウムなど高線量の放射性物質を含む「汚染水」になる。しかも建屋には地下水が流入し続けている。

 こうした建屋を循環した汚染水は非常に扱いが危険なので、多核種除去設備(ALPS)などで放射性物質を除去して、原発構内に建設した約1000基のタンクに貯蔵する。これが「処理水」だ。

 非常に水に近い放射性物質であるトリチウムはALPSで除去できないため処理水に含まれたままになる。ちなみにトリチウムの出す放射線のエネルギーは、セシウムの1/700程度。体内に取り込んでも、水は10日、食べ物は40日ほどで排出される。

 原子力規制委員会などの試算では2019年3月末の時点で、原発構内にはおよそ117万トンの水があり、そのうち処理水はタンクに収納された約100万トン。22~24年には137万トンに達する見込みだ。問題は、それ以上、置く場所がないということだ。

処理水保管スペースがない

 東京電力福島復興本社の関係者は語る。

「原発の敷地構内には水素爆発時の高線量がれきなどを保管するスペースも必要です。敷地外の福島県双葉町と大熊町は除染時に出た土壌などを保管する中間貯蔵施設が建設される予定です。つまり、24年の段階で処理水を置く場所がなくなる可能性があるのです」

 増え続ける処理水のタイムリミットは迫りつつある。では、処理水は簡単に海洋放出できるものなのか。

 福島第1原発では処理水とは別に、原発敷地内に降った雨水や余分な地下水を放出している。敷地内にはメルトダウンと建屋の水素爆発で大量の放射性物質が堆積しているため雨水や地下水にも放射性物質が混じる。

 現在、こうした雨水や地下水を放出する際に国が定めた放射性物質含有量の基準値は6万Bq(ベクレル)/ℓ。国際的にも厳しい基準を採用していて「その濃度の水を、1年間毎日2ℓ飲み続けると、内部被ばくが年間1mSv(ミリシーベルト)になる」という数値が根拠になっている。

 これに加えて、東電は福島県の漁業者との交渉をまとめるため、さらに厳しい自主的な規制値を設定。現在、原子炉建屋周辺の観測井戸や地下水バイパス(福島県大熊町側の建屋を迂回し、直接海に流れるように設置した排水路)からの汚染雨水の放出基準値は1500Bq/ℓ以下で運用している。これは法定基準の40分の1の値だ。

処理水と放出している汚染雨水・地下水は別物

 一方、タンク内の処理水のトリチウム濃度は30万~200万Bq/ℓ。当然、そのまま海洋放出はできない。薄めるにしても専用の池をつくるのか、タンク内に海水なり水を引き込んで行うのか、コストや技術面での課題は尽きない。少なくとも、いきなり海に放出するのは非現実的だろう。

 原子力規制庁の関係者は次のように話す。

「ネット上では地下水バイパス(雨水や地下水)と処理水の海洋放出の基準値を混同した意見をよく目にします。そもそも処理水をどのように最終処分するのか決まっていないので、海洋放出する際の具体的な濃度や薄め方も決まっていません。政府の有識者会議では、処理水から直接トリチウムを取り除く方策も諦めずに研究されています。いきなり大阪湾に海洋放出というのは現実的ではありません。

 確かに時間はあまり残っていません。コストもかかるかもしれません。安易に海洋放出ありきではなく、日本の持てる知識や技術、あらゆる手段を講じていく必要があります」

 国民的な議論がまさに必要だ。簡単に出していい結論ではない。

BusinessJournal編集部

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