ビジネスジャーナル > 企業ニュース > NHK経営委員長候補、過去の不祥事
NEW

次期NHK経営委員長、最有力候補人物の過去の“スキャンダル”

文=有森隆/ジャーナリスト
【この記事のキーワード】, ,
次期NHK経営委員長、最有力候補人物の過去の“スキャンダル”の画像1
NHK放送センター(「Wikipedia」より)

 NHKの経営に関する最高意思決定機関である経営委員会の石原進委員長(JR九州相談役)が退任する。石原氏は3期9年という異例の長さで経営委員長を務めた。

 2018年10月、かんぽ生命保険の不正販売を報じた番組『クローズアップ現代+』をめぐり、日本郵政の意向に沿うかたちで経営委員会がNHK会長をガバナンスの名目で厳重注意した問題では、石原氏の判断の是非が問われた。厳重注意の結果、NHK会長が郵政側に事実上の謝罪の書簡を送ったことで「ガバナンスの名を借りた事実上の報道現場への介入」との批判を浴びた。石原氏は12月10日に任期満了を迎える。晩節を汚したことになるのか。

 経営委員の顔触れと、11月13日に政府が衆参両院の議院運営委員会理事会に提示した国会同意人事案を見ると、槍田松瑩・三井物産顧問が“ポスト石原”の有力候補である。

「委員長職務代行者の森下俊三・阪神高速道路取締役会長が委員長に昇格することはない」(永田町筋)

 石原氏と入れ替わるかたちで、同じ九州地区から磯山誠二・九州リースサービス社長が経営委員になる。磯山氏は西日本シティ銀行副頭取だった15年9月に福岡商工会議所会頭になっている。

槍田氏の古傷

 槍田氏は秋の叙勲で旭日大綬章を受章した。槍田氏は三井物産の会長時代、娘婿を同社に入社させるなど「公私混同」があった人物だが、NHK経営委員会委員長の有力候補に浮上したから勲章を受章したのかもしれない。いまだに経団連副会長になりたい人があとを絶たないのも、勲章が狙いである。

「槍田氏がNHKの経営委員会の委員長になれば、“無定見な技術屋の委員長”になる心配がある」(三井物産の元役員)。首相官邸としては、今まで以上にNHKを制御しやすくなる。

 11月3日付日本経済新聞で槍田氏の経歴が紹介されている。59歳の若さで三井物産の社長に抜擢され、同社初の技術系出身のトップとなり、日本貿易会会長や経団連副会長を務めた。エネルギーへの思いは熱く、東京電力ホールディングスの社外取締役も引き受けた。国際大学(新潟県)の理事長も務めた。

 槍田氏の古傷とは何か。「長女真希子さんの夫を三井物産に途中入社させた」と「選択」(選択出版/14年6月号)で報じられたことがある。同社には「子息(女婿を含む)の入社を認めない」という内規があり、この内規に違反するという内容だった。同社の広報は「真希子さんの夫も、真希子さんと同じNHKの出身で、2人は顔見知りだったが、夫になった人がNHKを辞めて、もう1社を経て三井物産に途中入社したのは2人が結婚する前。三井物産に入ってから、正式に交際を始めて結婚したのだから内規には違反していない」と苦しい弁明に追われていた。

 この時、さらに三井物産の人事サイドから、別のスキャンダルが漏れてきた。「次女の夫を日本ユニシスに押し込んだ」というものだった。当時、日本ユニシスは三井物産の子会社で、内規違反ではないかという声もあった。NHK前会長で三井物産元副社長の籾井勝人氏も日本ユニシス社長を務めていたことがある。

 日経新聞のルーツである中外物価新報は、三井物産の調査部から独立した歴史があり、三井物産と日経新聞は関係が深い。槍田氏の長女・真希子氏はNHKのアナウンサーだったが、日経新聞に転職し、日経CNBCのニュース番組のアンカーを務めていた。日経新聞社内では「父親のコネで日経に転職した」と噂されていた。

 槍田氏の親族の就職問題が標的になったのは、三井物産の社内事情による。国後島など3島のディーゼル発電施設をめぐる偽計業務妨害事件で社員3人が逮捕された事件で(このうち2人が起訴)、上島重二会長、清水愼次郎社長が引責辞任した時に急遽、ショートリリーフで専務だった槍田氏が登板した。この時、槍田氏は「ひょっとしたら三井物産は金儲けのことばかり考え、倫理観を失っていたのではないのか。もちろん業績を伸ばすのは大事ですが、かつての三井物産は『世の中のためになろう』という気概があった」「利益より尊敬が大事」という社長就任の弁を述べていた。

 しかし、現実にやっていたことは、親族をコネで入社させたこと。言行不一致というわけだ。ショートリリーフのはずが社長、会長に長らく居座っていることに対する社内の反発もあった。何より飯島彰己社長(当時、現会長)が槍田氏の影響力の排除に動き出したことが、スキャンダルが外に漏れた原因と指摘されていた。

TBSホールディングスの社外取締役を突如辞任

 槍田氏の評判が、さらに落ちる“事件”が起きた。18年3月、NHKの経営委員に就任した時である。2月28日付でTBSホールディングスの社外取締役を任期途中で辞任し、NHKに鞍替えしたのだ。TBSホールディングスの社外取締役は10年以上やっていた。NHKの経営を混乱させた籾井前NHK会長も三井物産の出身。「よくまあ槍田さん、NHKに来られたものだ」と冷ややかな声がNHK内外から響いていた。

 槍田氏が東京電力ホールディングスの社外取締役に就いたままでNHK経営委員長に就任すれば、利益相反になるとの指摘もある。NHKの経営委員は埼玉大名誉教授の長谷川三千子氏が再任。長谷川氏は保守派の論客である。名城大教授の水尾衣里氏が新たに起用された。退任するのは石原委員長と、海陽学園海陽中等教育学校長の中島尚正氏である。海陽学園は安倍晋三首相のブレーンである葛西敬之JR東海取締役名誉会長が理事長を務めている。

(文=有森隆/ジャーナリスト)

有森隆/ジャーナリスト

有森隆/ジャーナリスト

早稲田大学文学部卒。30年間全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書は「企業舎弟闇の抗争」(講談社+α文庫)、「ネットバブル」「日本企業モラルハザード史」(以上、文春新書)、「住友銀行暗黒史」「日産独裁経営と権力抗争の末路」(以上、さくら舎)、「プロ経営者の時代」(千倉書房)など多数。

次期NHK経営委員長、最有力候補人物の過去の“スキャンダル”のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!