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閉店ラッシュの百貨店に未来はあるのか?老舗の「地場独立系」は悲惨な状況

構成=長井雄一朗/ライター
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大沼の山形本店(「Wikipedia」より)

 百貨店の苦境が叫ばれて久しい。そのため、再編が進んだ百貨店業界では経営統合が相次ぎ、今は不採算店舗を閉鎖する動きも目立っている。東京商工リサーチの「2018年度決算『全国主要百貨店』業績調査」【※1】によると、全体の約7割が減収となっている。

 1月には、元禄時代から続く日本で3番目に古い山形の老舗百貨店・大沼(山形市)が自己破産するなど、特に「地場独立系百貨店」【※2】の経営状況は厳しい状況が続いている。百貨店業界の現状について、東京商工リサーチ情報本部情報部の増田和史課長に話を聞いた。

店舗閉鎖が加速、都心店に経営資源を集中

――百貨店の業績は相変わらず厳しいようですね。

増田和史氏(以下、増田) 全国の主要百貨店77社の18年度(18年4月~19年3月期)の売上高合計は約5兆8608億円(前期比2.0%減)で、前期に続き減収となりました。一方、純利益の合計は前期の174億円から678億円(同288.8%増)と急増していますが、これは一部の好調企業が全体を牽引するなどが要因で、赤字企業数は増加しています。

 売上高は増収が25社(構成比32.4%)に対し、減収は52社(同67.5%)と約7割を占めており、好調組が全体の業績を牽引する二極化の構図が強まっています。

 売上高トップは2年連続で高島屋の7291億円。2位以下は、大丸松坂屋百貨店(6804億円)、三越伊勢丹(6342億円)、セブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武は一部事業の統合や閉店で前期比10.3%減の6152億円と、前期2位から4位に後退しています。いずれも、経営統合した大手百貨店グループなどが上位を占めています。5位以下は、阪急阪神百貨店、近鉄百貨店、東急百貨店、ジェイアール東海高島屋、東武百貨店、小田急百貨店で、東京や大阪の電鉄系の百貨店が並びました。

――最近は、百貨店の店舗閉鎖もニュースになることが多いです。

増田 近年も店舗閉鎖の動きが加速しています。首都圏の大手に限っても、三越伊勢丹は18年3月に伊勢丹松戸店、19年9月に同相模原店と同府中店を、そごう・西武は18年2月に西武小田原店と同船橋店を閉店しました。20年8月には同岡崎店、同大津店、そごう西神店、同徳島店、21年2月には同川口店を、それぞれ閉店予定です。高島屋も20年3月に米子高島屋の株式を地元企業に譲渡し、同年8月には港南台店を閉店予定です。

 全国展開する大手は地方の中核都市の不振店舗を閉鎖し、インバウンド(訪日外国人観光客)で好調な都心部の旗艦店に経営資源を集中する戦略をとっています。これが功を奏して、業績が浮上した例もあります。

――東京から近い千葉の松戸や船橋の店舗も閉鎖せざるを得ないとは、驚きです。

増田 今の百貨店業界はインバウンド需要に支えられている側面があります。そのため、買い物客は「都心7区」といわれる銀座、渋谷、池袋、新宿などの地域に集中する。東京から近い松戸や船橋もインバウンド需要を十分に取り込むことはできなかったため、不採算店舗という判断になったのではないでしょうか。裏返せば、危機感の表れとも言えるでしょう。

 都心7区のほか、インバウンド需要が高い札幌、名古屋、阪神、福岡に経営資源を集中する動きも見えます。また、今回の調査では地場独立系の業績が芳しくないことも明らかになりました。

地場独立系百貨店の4つの課題

――地場独立系百貨店の業績を具体的にお願いします。

増田 該当する35社の最新期の売上高合計は8685億3600万円で、前期から2期連続で減少しています。企業数では、増収が11社(構成比31.4%)で約7割の24社が減収です。損益合計ではマイナス74億9300万円と赤字に転落、企業別でも黒字が18社、赤字が17社と拮抗し、赤字企業は前期の12社から5社増えています。この17社中、3期連続で赤字を出している企業は7社です。

 地場独立系は全体と比べて減収と赤字の比率が高くなっています。地域密着型で“老舗”の信用があるとはいえ、限られた経営資源と閉塞感が漂う地域経済では収益改善を図る方策は少なく、厳しい経営環境に直面しています。

――なかでも、大沼の破産は大きなニュースでしたね。

増田 背景としては、今申し上げたような問題があります。大沼は山形市の目抜き通りのランドマーク的な存在でしたが、地域中心部の空洞化により苦戦を強いられ、売り上げが伸び悩んでいました。地元の顧客が仙台に流出し、郊外型店舗との競争では劣勢を強いられていたのです。大沼は三越、松坂屋に次ぐ3番手の老舗であり、320年の歴史を持つ山形唯一の百貨店でしたが、時代の波に抗えなかったといえます。

 ただ、雇用の問題はありますが、地場独立系百貨店が地方経済に与える実質的なインパクトは、もはやそれほど大きくないと考えています。

――ほかにも、地場独立系の閉鎖の事例などはありますか。

増田 創業1615年で400年以上の歴史を持つ老舗の丸栄(名古屋市中区)は18年6月に閉店。山梨県の甲府駅前に立地する山交百貨店(甲府市)は19年9月で閉店、百貨店事業を終了しました。

 このほか、事業再生ADRを申請したヤマトヤシキ(姫路市)や、第二会社へ事業譲渡したティー・ディー(旧・鳥取大丸、鳥取市)など、金融債務の負担を切り離して再出発を図る企業もあります。

 大手は収益が見込める店舗に経営資源を集中しますが、地場独立系は地域が主戦場なので、ビジネスモデルの限界を示唆しています。山形に続き、今年8月にはそごう徳島店が閉店を発表しており、徳島も百貨店ゼロ県になりますが、ほかの地域でも、さらなる再編、廃業、経営破綻の動向に注目が集まります。

――地場独立系が生き残る術はあるのでしょうか。

増田 経営統合などでスケールメリットを図る大手との経営格差は拡大しており、設備投資や商品力など魅力的な店舗づくりという面でも、地場独立系はますます不利な状況に追い込まれています。具体的には、販売されている商品にニーズがない、ECサイトのほうが品揃えが豊富、地域の中心部の空洞化、郊外のショッピングモールに人が流れている、などの課題を抱えています。

 打つ手がないというのが現状ですが、ひとつにはシニア層の取り込みが言われています。立地は地域によって違いますが、昔の市街地の中心地にあることが多いため、クルマに乗れない高齢者をターゲットにするというものです。

――いっそのこと、パルコのようにデベロッパー事業で再生するという道はないのでしょうか。

増田 地場独立系のなかには商業施設を運営している例もあるとは思いますが、今は百貨店に限らず小売業全体が厳しい状態です。立地の良い土地を保有している百貨店は、不動産業に転換する可能性があります。

閉店ラッシュが続く百貨店の未来

――消費税増税の影響などはあったのでしょうか。

増田 ポイント還元など政府のバックアップもありますが、日本百貨店協会の資料では19年10~12月の売上高(前年同月比)は5%以上下回っているので、芳しくありません。消費増税の影響のほか、暖冬で冬物衣料の販売が不振で、さらに中国武漢市に端を発したコロナウィルスにより春節のインバウンドも期待できなくなっているため、今後も明るい話題は少なそうです。

――百貨店に未来はあるのでしょうか。

増田 これは大手に限られますが、日本のブランド力が生かせるアジアなどへの海外進出は打開策になり得るでしょう。大手は経営統合や店舗リストラなどの施策が一息ついた感がありますが、その波に乗り切れなかった地場独立系の動向は要注意です。

 M&A(合併・買収)に関しては、大手にとってメリットがあれば地場独立系の立て直しに乗り出すケースが増えるかもしれません。かつて伊勢丹(現:三越伊勢丹)が福岡の岩田屋の救済に動き、現在の岩田屋三越につながった例があります。当時の伊勢丹にとっては、福岡進出というメリットがあったわけです。しかし、そのM&Aも一巡した感があり、これだけ閉店ラッシュが続いているので、百貨店を取り巻く環境はさらに厳しくなることが予想されます。

(構成=長井雄一朗/ライター)

【※1】対象は、日本百貨店協会の会員百貨店経営会社のうち、持株会社などを除いた主要77社。業績はすべて単体決算。最新期を2018年4月-2019年3月期とし、前期(2017年4月-2018年3月期)、前々期(2016年4月-2017年3月期)の3カ年分の決算を比較

【※2】大手百貨店など流通グループ、大手私鉄(16社)グループの持株構成比が過半数を占める企業を除いた35社を「地場独立系」百貨店と定義。

長井雄一朗/ライター

長井雄一朗/ライター

建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス関係で執筆中。

Twitter:@asianotabito

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