新型コロナウイルス感染拡大への対策として、安倍首相は1日、全世帯(5852万世帯。内、日本人住民5700万世帯:総務省2019年1月1日現在)にマスクを2枚ずつ配布すると表明した。「2枚じゃなくてせめて世帯の人数分」とか「それより現金給付」といった声が上がっている。日本中からブーイングが起きるのは当然だ。
安倍首相は「全国の医療機関に対しては先月中に1500万枚のサージカルマスクを配布、来週は追加で1500万枚を配布する。加えて高齢者施設、障害者施設、全国の小中学校にも布マスクを配布する」(1日付 BuzzFeed Japan記事)ので、次は家庭に配布するということのようだ。
しかし、日本郵便を使って全世帯に送るための郵便料金は、単純計算すると5852万世帯×84円=約49億円にもなる。大量郵便なので半額になるとしても約25億円だ。菅義偉官房長官は2日の記者会見で「費用は1枚200円程度」と説明したが、こんな税金の無駄遣いはないだろう。マスク2枚のために200円×2×5852万世帯=約234億円、郵便料金が別途であれば25億円増えて、計約260億円も使うことになる。日本郵便を助けるためにマスクを配るのだろうか。郵政族の入れ知恵ではないかと疑いたくなる。
今の時期、国民が苦しんでいる時に、こんな税金の無駄使いはない。260億円あれば、もっと有効な使い道はいっぱいあるだろう。国民に現金給付するのには遠く及ばない金額だが、人工呼吸器などの機器類、病院船などの隔離施設といった医療関係なら、すぐに使い道はあるはずだ。マスクを国民に配る費用よりは、はるかに有効な使い道になる。
政府は来月にも経済政策を発表するようだが、現金給付を要望する声も多い。各世帯のポストを郵便局員が訪問するのなら、例えば、その時に「1世帯50万円の現金給付票」も投函すればよい。世帯主もしくは代理人が、その給付票に振込先口座を記入し、身分証明書を持参して役所に届ければ、1カ月以内に50万円が振り込まれる。もし、緊急事態宣言を出すなら、解除されるまで毎月、その口座に50万円が振り込まれるといった方法もある。その現金給付票にマスクが2枚付いてくるなら、誰でも喜ぶだろう。
解雇された、ボーナスが出ない、家賃が払えない、家のローンが払えない、という人たちがかなりいる。マスクがなくても生きていけるが、現金がなければ食べるものさえ買えなくなる。毎月1世帯50万円あれば、外出禁止でも我慢できるだろう。
人の命を守ることと同時に、今一刻も早くするべきことは、生活に苦しんでいる人を助けることだ。このままいつまでたっても経済対策が実行されなければ、生活苦で命を落としてしまう人も出てくるかもしれない。すでに倒産する中小企業も出ている。
税金はいくらあっても足りないのだ。だからこそ有効に使わなければならない。何も決められない、何も進まない、そんな今の政治に、突如として2枚のマスク配布が発表される。北海道にマスクを送ったことで、味をしめたのだろうか。マスクを配れば国民が喜ぶとでも思っているのだろうか。安倍首相や政府関係者の口癖である「躊躇なくやる」とは、こんなことだったのか。国民が困っているマスクを配布すれば、支持率が上がると思っているのだろう。
安倍首相のやり方を見ていると、すべて「自分の保身のために、新型コロナウイルス問題を利用しようとしている」としか思えない。おそらく側近たちも、国民ではなく首相の顔色ばかりをうかがっているのだろう。まともな神経を持った人であれば、これを止めようとするはずだ。今、まさに安倍首相は裸の王様だ。誰か首相を止める人はいないのか。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)