東京証券取引所は7月30日、大塚家具が上場廃止に係る猶予期間入り銘柄になると発表した。期間は2020年5月1日から22年4月30日まで。大塚家具が提出した有価証券報告書で、最近4年間の営業損益と営業キャッシュフローが赤字やマイナスになったためだ。
大塚家具はとうとう土俵際に追い込まれた。7月30日は奇しくも、大塚家具の株主総会の当日だった。東京・江東区有明の東京ファッションタウンビルで第49回定時株主総会が開かれた。19年12月、大塚家具を子会社にしたヤマダ電機は社長の三嶋恒夫氏を代表取締役会長として送り込んだ。大塚家具社長の大塚久美子氏は続投する。ヤマダからは取締役兼専務執行役員事業統括本部長の村澤圧司氏、事業統括本部インテリア家具事業部長の名取暁弘氏、経営企画室参事の清野大輔氏が取締役として送り込まれた。清野氏は取締役営業商品副本部長の要職に就いた。
大塚家具側は久美子社長や妹の夫である取締役専務執行役員流通本部長兼海外営業部管掌の佐野春夫氏など4人が再任された。取締役会の構成はヤマダと大塚がそれぞれ4人、独立社外取締役の弁護士1人となった。社外取締役の陳海波氏は退任した。
陳氏は大塚家具の資本支援をとりまとめた人物。日中をつなぐネット通販、ハイラインズの社長。中国大手の家具店、居然之家(イージーホーム)を呼び込む再建計画を立てた。久美子社長は「日本から一歩、歩みだす。中国の富裕層の取り込みを目指す」と大見得を切った。しかし、陳氏のアイデアだった中国のファンドは出資を見送り、中国での展開も、通販サイトの利用も白紙に戻ってしまった。
父と娘の骨肉の争い
大塚家具の父と娘の骨肉の争いは、連日ワイドショーを賑わし、国民の好奇の目にさらされた。15年3月の株主総会で久美子氏が父親に勝利した。だが、「古い大塚家具ではダメだ」と声高に主張する久美子社長の改革は、役員、従業員の支援を得られず頓挫。赤字経営が一気に表面化した。
窮状に陥った久美子社長に手を差し伸べたのが、ヤマダ電機の創業者で代表取締役会長兼取締役会議長の山田昇氏だった。
「久美子社長がヤマダの子会社になる条件をのまなかったため、なかなかまとまらなかったが、最後に折れたのでまとまった」(関係者)
三嶋氏は再建請負人
ヤマダ電機が会長に送り込んだ三嶋氏は、北陸が地盤の家電量販店「100満ボルト」を運営するサンキュー(福井市)の社長を務めていた。サンキューを傘下に収めた家電量販店業界3位のエディオンでリフォーム事業を担当した。住宅リフォーム事業での三嶋氏の実績を買い、山田会長が17年6月、ヤマダ電機の執行役員副社長に就けた。1年後の18年6月、代表取締役社長兼代表執行役COO(最高執行責任者)に昇格。異例の大抜擢といわれた。
山田会長は、「家電販売だけではジリ貧になる」との強い危機感を持っている。国内市場は人口の減少が続いている。テレビなどの家電がどんどん売れる時代ではない。インターネット通販のアマゾン・ドット・コムなど強力なライバルが出現している。
ヤマダが力を入れているのが住宅関連事業だ。11年、注文住宅のエス・バイ・エル(現ヤマダ・エスバイエルホーム)を買収した。17年から家電と住宅関連サービスの複合店「家電住まいる館」の出店を開始。家電の売り場を縮小し、家具や住宅、リフォーム関連のスペースを拡大してきた。家電の売り場が店舗全体の半分しかない店もある。20年3月末現在、「家電住まいる館」は109店になった。「家電住まいる館」を担当したのが、ヤマダ入りしたばかりの三嶋氏だった。
2月7日、ヤマダの旗艦店「LABI1日本総本店池袋」(東京・豊島区)、「LABI品川大井町」(東京・品川区)、「LABI1なんば」(大阪・浪速区)、「LABI LIFE SELECT千里」(大阪・豊中市)の4店舗をリニューアルオープンした。ソファやテーブル、椅子など大塚家具が扱う商品とヤマダの有機ELテレビや白物家電を組み合わせて展示。実際に使用したらどうなるかを顧客がイメージできるような品揃えになっている。
池袋店の改装オープンは報道陣に公開された。店内を視察する山田会長の後ろを、大塚家具社長の久美子社長が歩む。まさに、大塚家具がヤマダの傘下に入ったことを象徴する光景だった。
ヤマダの三嶋社長は「テレビを楽しむために部屋をどう変えれば、より快適にできるかを提案する。(大塚家具と協力して)家電量販店の垣根を越えたい」と語っている。
一方、大塚家具は6月19日から有明、新宿、横浜みなとみらい、名古屋栄、大阪南港、神戸、福岡の全国7カ所のショールームで家電の展示販売を本格化した。リビングやダイニング、寝室など暮らしのシーンごとに、家具やインテリアとマッチする家電を揃えている。テレビとソファ、ダイニングテーブルと冷蔵庫やスチームオーブンレンジ、ベッドと空気清浄機といった組み合わせだ。デザインや色彩のトーンをうまく調和させている。3月6日、有明ショールームでの家電の展示販売を皮切りに、順次展開する計画だったが、新型コロナウイルスの影響で延期。緊急事態宣言の解除にタイミングを合わせ、7店舗を一斉にオープンした。
「家具の家電はライバル。相容れない」というジンクスが小売業界にはある。家具と家電はいずれも耐久消費財で購入頻度は低い。消費者は家具の良いものを買ったら、しばらく家電は買わない。「家具と家電のコラボは砂上の楼閣」という厳しい見方もある。
久美子社長は、あと1年
大塚家具の業績は最悪だ。決算期の変更に伴う16カ月変則決算の20年4月期の単独決算は最終損益が77億円の赤字だった。最終赤字は4期連続で赤字幅はどんどん広がっている。16カ月決算でありながら売上高は348億円。12カ月決算だった前期実績(18年12月期、373億円)を下回った。新型コロナウイルスによる臨時休校や外出自粛要請で新学期の需要期にあたる、かき入れどきの3~4月に客数が落ち込んだのが痛かった。
同業他社と比べても大塚家具の落ち込みは際立つ。家具・ホームセンター大手の島忠の20年8月期の売上高にあたる営業収益は前期比3%増の1508億円、純利益は1%増の60億円を見込む。家具大手のニトリホールディングスは絶好調で、株価も上場来高値を更新した。ニトリは一時、全店の約2割にあたる110店で休業したが、20年3~5月期の連結決算の売上高1737億円、純利益255億円と過去最高となった。テレワークの広がりで仕事用の机や椅子が売れ、収納家具やキッチン用品も伸びた。
大塚家具は、新たに家電の取り扱いを開始したことから、5月以降月次情報の開示をやめている。リベンジ消費の大波に乗れているのだろうか。2021年4月期決算は「コロナ禍であり、現時点では今後の見通しを合理的に算出できない」とし「未定」である。
ヤマダの山田会長は買収会見で、「ウチは結果主義。黒字にできるというからやらせる。(久美子社長に)1年任せる」と語った。久美子社長の賞味期限は、あと1年ということだ。21年4月期に黒字転換できなければ、ヤマダが送り込んだ役員がトップになるだろう。4月30日現在、ヤマダから大塚家具に56人が出向している。
ヤマダ社内には「完全子会社にしたほうが合理的」といった強硬論もある。20年4月30日現在、ヤマダは大塚家具の議決権の51.31%を保有しているが、大塚家具が完全子会社になれば上場廃止となる。12年に買収したベスト電器は完全子会社となり、上場廃止された。上場廃止すれば、株価や株主への目配りをせずに、リストラを円滑に進めることができる。東京証券取引所から、とやかく言われることもない。
これで、大塚家具がヤマダ家具になる日に一歩近づいた。上場廃止の猶予期間入りが、ヤマダの決断を早めることになるかもしれない。
(文=編集部)