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東芝・車谷社長は外資系ファンド=株主還元のために“資産切り売り”…企業価値を棄損

文=編集部
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東芝の事業所(「Wikipedia」より/Waka77)

 東芝が7月31日に開いた定時株主総会。車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)の賛成比率が57.96%にとどまったことが、東芝が8月4日、関東財務局に提出した臨時報告書で判明した。反対が18.96%で23.05%が棄権した。かろうじて首がつながったが、「事実上の不信任」(株主総会関係者)との声があがる。車谷氏は「薄氷」を踏む思いだったろう。今後の経営のカジ取りに影を落としている。

 2019年の総会では車谷氏(当時、会長兼CEO)への賛成比率は99.43%だったが、今回は会社提案の役員候補の12人中で最も低かった。会社提案で賛成が最も多かったのは取締役会議長に就任した中外製薬の永山治名誉会長の97.70%だった。

 昨年は株主提案もなく、会社側が提案した取締役候補全員が9割超の賛成を得た。それが一転、今年は2つの外資系投資ファンドが、それぞれ自社が推薦する取締役の選任を求めて株主提案を行った。

エフィッシモはコンプライアンスの専門家、國廣正弁護士を法務アドバイザーに招く

 株主提案したのは、いずれもシンガポールに拠点を置くエフィッシモ・キャピタル・マネージメントと3D・オポチュニティー・マスター・ファンド。東芝株式の約10%を持つ筆頭株主のエフィッシモは3人、同じく4%程度を保有する3Dオポチュニティーは2人の社外取締役の選任を求めた。

 エフィッシモはコンプライアンスや企業統治の専門家、國廣正弁護士が法務アドバイザーに就いた。國廣弁護士は不祥事などを起こした企業が設置する第三者委員会で活躍し、コンプライアンスの権化といわれている。旧村上ファンドの元代表、村上世彰氏がニッポン放送株をめぐるインサイダー取引容疑で逮捕された後、同ファンド出身の今井陽一郎氏ら3人が村上氏とたもとを分かつかたちで設立したのがエフィッシモだ。國廣氏が旧村上ファンド出身者のファンドの法務アドバイザーに就いたことが多くの法曹関係者を驚かせた。

 エフィッシモは東芝の孫会社の東芝ITサービスが循環取引を起こしたことから、東芝のコンプライアンス体制が不十分だと主張。取締役候補3人は、創立者の今井氏に加え、国廣氏が推した2人となっている。かつて国廣氏の法律事務所にいた竹内朗弁護士と花王の元法務担当執行役員の杉山忠昭氏である。

エフィッシモの今井氏の取締役候補に、経済産業省が窮地に立たされる

 今井氏が取締役候補になったことで経済産業省が窮地に立たされた。外資規制を強化する目的で20年5月8日に施行されたばかりの改正外国為替及び外国貿易法(外為法)の「事前審査」に抵触し、経産省の姿勢が問われる事態に発展したからだ。

 改正外為法では外国投資家が日本の安全保障にかかわる事業を手がける上場企業の株式を一定程度取得する場合、事前の届け出を義務づけ、所管官庁が審査を行う。これは事前審査と呼ばれ、重点審査の対象となる企業には、もちろん東芝も含まれる。

 改正外為法では、「外国投資家自らまたはその関係者が、指定業種に属する事業を営む会社の取締役または監査役の選任に係る議案について、株主総会において同意しようとする」行為が事前審査の対象になる。ここでいう関係者に今井氏は該当する。

 東芝のケースは事前審査の第1号案件となった。経産省が初の案件で判断を示さなければ、「なんのための外為法改正か」との批判が出かねない。経産省は「外為法でアクティビストを止めたい」が本音だが、建て前はあくまでも安全保障にかかわる案件。安全保障と関係ない理由で止めたら、そんな国に外国の投資家は投資しなくなる。どっちを選択しても経産省に批判の矛先が向く。経産省は立ち往生した。

 エフィッシモが株主総会で自ら賛成の議決権を行使するには事前審査を受ける必要があり、届け出を済ませて審査を受けた。だが、経産省から行使の可否の通知はなく、エフィッシモは経産省の判断を待たずにネットで議決権を行使した。

 エフィッシモは7月30日、東芝株の一部を売り、保有比率が15.36%から9.91%に下がったと発表した。東芝は独立性の観点から社外取締役の東芝株の保有比率目安を10%未満としており、「創立メンバーの今井氏を社外取締役に選任するよう」提案しているエフィッシモが、このルールに従ったということになる。エフィッシモは國廣弁護士のアドバイスを受け、改正外為法の問題に真っ向勝負で挑んだ。経産省は審査の結果を示さない異例の事態となった。國廣弁護士の白星、経産省の黒星である。

 総会の結果はどうだったか。今井氏は賛成が43.43%、反対が54.77%。竹内朗氏は41.95%、杉山忠昭氏は37.68%の賛成票を集めた。

3Dオポチュニティーは車谷社長と社外取締役の藤森義明氏との関係を問題視

 3Dオポチュニティーはアレン・チュー氏と清水雄也氏の2人の社外取締役の選任を求めた。3Dオポチュニティー代表の長谷川寛家氏はゴールドマン・サックス出身。東芝の社外取締役候補として推薦する、ひびき・パース・アドバイザーズの最高投資責任者である清水雄也氏はゴールドマン時代の先輩だ。アレン・チュー氏はチューダー・キャピタルなど著名な国際投資会社で20年以上のキャリアを積んだ投資家である。

 3Dオポチュニティーは7月20日、東芝の車谷社長と社外取締役の藤森義明氏の取締役の再任に反対すると発表した。狙いが車谷氏の“解任”にあることははっきりしている。車谷氏と藤森氏の関係を問題視した。投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズで藤森氏が最高顧問、車谷氏が会長兼共同代表だったこともあるため、独立性に疑義があると主張した。また、東芝が藤森氏を取締役選任する理由としてM&Aのエキスパートであることをあげているが、「藤森氏はLIXILグループのCEO時代に多くのM&Aに失敗しており、その評価は極めて疑わしい」とした。

 3Dオポチュニティーが車谷社長ら2人の取締役再任にも反対したことから、「車谷社長の再任が否決される」シナリオも一部投資家の間で囁かれた。

 ここで、東芝に予期せぬ追い風が吹いた。海外の機関投資家に影響を与える議決権行使助言会社のISSとグラスルイスが株主提案に反対し、会社提案に賛成した。両社が反対を推奨していたら車谷氏の再任が否決されていたこともあり得た。間一髪でセーフだったことは賛成比率を見れば明らかだ。

 3Dオポチュニティーが再任反対を呼びかけた藤森氏の反対は19.92%。車谷社長(18.96%)より高かった。賛成率は78.09%で再任された。3Dオポチュニティーが提案した取締役候補のアレン・チュー氏と清水雄也氏の賛成率はともに31.14%だった。

キオクシアHD(旧東芝メモリ)株を売却して株主に還元

 不正会計と米原発子会社の巨額損失で経営危機に陥った東芝は17年、投資ファンドなどを引き受け手とした6000億円の巨額増資に踏み切った。その結果、海外投資家の比率は最大で7割に高まり、「物言う株主」の保有率も急増した。

「物言う株主」が求めるのは、利益の株主への還元策だ。東芝は6月22日、4割を出資する半導体メモリ大手、キオクシアホールディングス(HD)株を売却する方針を示した。キオクシアHDの上場後に段階的に売却し、売却益の過半を株主に還元すると表明した。

 キオクシアHDは東芝の半導体メモリ子会社・東芝メモリが前身。米原子力事業の巨額損失で経営危機に陥った東芝は、18年6月、米投資ファンドのベインキャピタルを軸とする日米韓連合に約2兆円で東芝メモリを売却。その後、東芝は議決権ベースで約4割を再出資し、持ち分法適用会社にしていた。キオクシアHD株の売却方針は、株主総会で「物言う株主」の支持を取り付けるための露骨な懐柔策であることはいうまでもない。

 車谷社長はかろうじて再任にこぎつけ、さらなる資産の売却に踏み切った。8月4日、ノートパソコンを手掛けるダイナブックの株式19.9%をシャープに売却した。東芝は1985年に世界で初めてノートパソコンを発売して、一時は世界シェアでトップに立った。だが、経営危機に陥った2018年、パソコン事業を担う連結子会社をシャープに売却していた。シャープはこれまで80.1%のダイナブック株を取得しており、今回の追加取得により完全子会社とした。

 再建を資金面で支えた「物言う株主」への、積極的な株主還元は車谷社長兼CEOの基本方針である。総会での再任に対する棄権の比率の高さは、喉元に突き付けられた刃だ。「株主還元をきっちりやらなければ、いつでも反対票を投じて、首にできますよ」というメッセージが込められている。自分の首を守るために、どんどん会社の資産を売っていいのか、という厳しい見方もある。

(文=編集部)

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