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ワークマン強さの源泉、納品量はメーカー任せ&全量買い取り&返品なし…なぜ実現可能?

文=深笛義也/ライター
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ワークマンプラスの店舗(「Wikipedia」より)

 建築現場などで働く職人たち向けの作業服や安全靴を売っていたワークマンは、安価でありながら高機能な商品がアウトドア愛好家に着目されるようになった。ワークマンはそうした需要に応えた商品もつくり出すようになり、アウトドア向け商品に特化した「WORKMAN Plus」を、2018年にららぽーと立川立飛に開店。ワークマンの商品はライダー、登山家、釣り師、狩猟者などのアウトドア愛好家のみならず、厨房向けの滑らない靴が妊婦に買われていくなど客層を広げた。ワークマンは国内の店舗数でユニクロと競っている。

 ワークマンの経営で注目されているのが、「善意型SCM(サプライチェーンマネジメント)」だ。どれだけ納品するかという判断をメーカーに任せ、納品された製品はすべて買い取り、返品はしないというものだ。

 これをどう見るか。セブンイレブンでディストリクト・マネージャーとして約120店の経営指導をした経験を持つ、小売業・物流コンサルタントでBelieve-UP代表取締役の信田洋二氏から聞いた。

「セブンイレブンでもプライベートブランドのセブンプレミアムなどは、全量買い取りをしています。その場合、メーカーとはかなり詳細なすりあわせをします。例えばお菓子をつくる時に、その包装材が1ロットから70万個とか80万個とかできるというメーカー側のさまざまな状況に合わせて生産量を決めていきます。容器をつくる場合でも、新たな金型をつくるわけですから1000や2000では利益が出ないわけで、1万以上ないとメリットがありません。そういうことを総合して生産量を決めていきます。

 商品はまず全国の店舗に並べて、売り切れなさそうだと売れているエリアの店舗に集めたり、海外に持っていくなどして、極力全部売り切るようにしています。容器メーカーに聞いたんですけど、ローソンもファミリーマートも、もうこの容器は使いませんからと商品の終売の案内が来て、メーカーに戻ってくるそうです。ローソンで15%ほど、ファミリーマートに至っては30%ほど戻ってくるということです。

 メーカーからするとほかに転用できないので、廃棄するか、溶かして原材料にするしかない。すごいコストがかかるわけです。つくった分だけちゃんと買い取ってくれるというのは、これほどありがたいことはないわけです。そうするとセブンイレブンからの注文を受けているメーカーは、これをなんとしてでも維持しないといけない、と必死になります。品質管理をものすごくシビアにするので、不良品や規格外のものが極端に少なくなります。

 ワークマンでも同じことがいえるでしょう。作業現場やアウトドアで着る物ですから、ちょっとしたことで破れたり、ファスナーが壊れるなんてことが、生死を分けるかもしれません。メーカーが製品の安全性に気を配って、機能性も高くてデザインもいいとなったら、ワークマンが選ばれる。ワークマンとメーカーがしっかりタッグを組んで、客を掴んでいるという関係になっていると思います」

「はやり廃りがない」という事情

 ワークマンの善意型SCMでは、納品量もメーカー側が決めているが、これはどうなのだろう。

「コンビニの場合、事情が違ってきます。たとえばポップコーンは基本的に塩味ですけど、セブンプレミアムのポップコーンは、季節によって、胡椒、醤油、バター醤油、瀬戸内レモンとかフレーバーを変えているんですね。他の商品についても、季節によって売れ方が変わります。

 それに対して、ワークマンが扱っている作業服やアウトドアウェアは、そんなにはやり廃りがないと思えます。ワークマンのほうが売上高や在庫情報などを開示して、メーカーは納品量を決めているとのことですが、全量買い取りしてくれるワークマンから切られたくないですから、過剰な量を押し付けるということはないでしょう。

 それと、多少の在庫を抱えても長く売れる商品だということが背景にあると思います。コンビニが扱っている食品には賞味期限がありますけど、作業服やアウトドアウェアの場合は5年先10年先でも売れるでしょうから。同じ衣料品の生産販売でも、ユニクロの場合は、フリースやエアリズムとか新しい商品を出して客を惹きつけているので、はやり廃りもあると思います。納品量までメーカー側に決めさせているというのは、ワークマンならではでしょう」

セブンはメーカーを徹底的に競わせる

 作業服としての高機能がアウトドア愛好家に着目されるようになった、ワークマン。ブログやSNSでその着心地の良さをアピールしている人々に、ワークマンは直接声をかけて商品開発に活かしている。

「ワークマンの場合、作業服に特化していた時には、客は着れなくなったから新しい物を買いに来るということだった思うんです。アウトドア向けの商品を出すようになって、もっと高機能な商品が出ているかもしれないと客が来るようになったり、現場で着るのもデザインがいいほうがいいからと、アウトドア向け商品をブルーワーカーが買っていくということも起きているんだと思います。

 セブンイレブンがどうやって商品の差別化をやっているかというと、たとえば今、客がマシンを操作するカウンターコーヒーがどこのコンビニにもありますね。セブンイレブンではどの豆を使うかで、味の素AGFとUCCを闘わせるんです。豆の原価って、1杯、0.5銭とか1銭とかとかそのくらいしか利益ないんです。銭というのは円の100分の1ですから、本当に微々たるものです。それでもセブンイレブンの約2万店の店舗が、1店舗当たり1日平均120杯売るわけですから、莫大な利益になるわけです。だからメーカーとしても必死になりますよね。それが、豆のブレンドや焙煎の仕方などで、技術も磨かれていくわけです。

 セブンプレミアムにしても2社か3社で競わせます。提案してきた製品を何店かでテストしてみて、どう伸びたのかあるいは落ちたのか、お客さんの声はどうだったのかということで最終的に決めます。これも技術の切磋琢磨で、メーカーは自社製品に反映させます。ワークマンの場合は、メーカーの足かせ手かせをすべて外して自由につくらせるということで、商品の差別化を果たしているように思います」

 善意型SCMは、単なる善意で成り立っているのではなく、確固たる経営哲学に則っていると言えるだろう。

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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